本研究は自立型水分解用光触媒反応系として,水素生成光触媒と酸素生成光触媒が導電層に固定化された光触媒シートを作製し,太陽光水素エネルギー変換効率(STH)を向上させることを目指している.平成29年度は水素生成光触媒として710 nmまで長波長側の光を利用可能なLa5Ti2Cu0.9Ag0.1S5O7(LTCA)をZスキーム型光触媒シートに応用可能としたが,酸素生成光触媒には520 nmまでの光しか利用できないBiVO4を用いていた.また,ロジウムクロム複合酸化物助触媒を担持したAlドープSrTiO3(RhCrOx/SrTiO3:Al)にCo種を光電着担持することで,常圧下における水分解活性の耐久性が改善されていたが,1か月程度の反応期間中に活性劣化が見られていた.平成30年度はこれらの課題を克服する成果が得られた. LaTiO2N光触媒はAuなどの高仕事関数の金属を裏面導電層に用いると活性が著しく悪化するが,予め酸化コバルト種を担持しておくことで光アノード応答が改善されることが見出された.この結果,吸収端波長が710 nm,600 nmとそれぞれ長波長域にあるLTCAとLaTiO2Nを金薄膜に固定化した光触媒シートを用いてZスキーム型水分解反応を駆動させることが可能になった. RhCrOx/SrTiO3:Al光触媒上にCo種はCoOOHとして酸化的に光電着されていることをオペランドXAFSを用いて明らかにし,CoOOHが正孔を捕捉してCr種の酸化溶出を抑制するために活性劣化が抑制される機構を提示した.さらに,CoOOHとRhCrOxを共担持したSrTiO3:Alに対してTiO2を光電着担持すると,水分解反応活性がより一層安定化することを見出した.1300時間の連続光照射下で初期の活性の8割を維持する光触媒シートを人工光合成プロセス技術検討組合と共同で開発した.
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