研究課題/領域番号 |
15H05497
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
小林 玄器 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 特任准教授 (30609847)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオン伝導体 / ヒドリドイオン伝導体 / 固体イオニクス / エネルギー貯蔵・変換 |
研究実績の概要 |
1. ヒドリド(H-)を利用した新しい作動原理のエネルギーデバイスの実現に向け、H-超イオン導電体とH-インターカレーション材料の探索をおこなった。高圧法によりK2NiF4型構造のLa-Sr-Li-H-O系の酸水素化物(LSLHO)を合成し、当該物質が200℃以上の温度域でH-導電性を示すことを見いだした。LSLHOは、La/Sr比を変えることでH/O比とアニオン空孔の量を制御することができるフレキシブルなアニオン副格子を持ち、H-が占有するペロブスカイト層に空孔を導入することで300 ℃における導電率を0.1 mS/cmに向上させることに成功した。また、LSLHOを固体電解質、Tiを負極、TiH2を正極に用いた全固体電池は放電容量を示し、TiH2から放出された水素がH-としてLSLHOを導電してTiに吸蔵される反応を捉えることができた。
2. LSLHOのLa/Srをイオン半径の大きいBaに置換したBa-Li系の新規酸水素化物(BLHO)の合成に成功した。BLHOはLSLHOと同じK2NiF4構造をとり、H-はペロブスカイト層を優先的に占有した。La/SrからBaへの元素置換により格子体積は膨張し、a、b軸方向に膨張の影響が大きく現れた。BLHOのイオン導電率は300 ℃未満の温度ではLSLHOと同程度であったが、300 ℃で導電率が急激に上昇し、325 ℃で10 mS/cmを越える優れたH-導電特性を示した。結晶構造解析の結果、低温で規則配列していたペロブスカイト層内のH-と空孔が300 ℃で不規則配列することが分かり、観測された導電率の急激な上昇は、この300 ℃での相転移に起因することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
La-Sr-Li系酸水素化物のH-導電特性と固体電解質としての性能をを実験的に明らかにした。さらに、Ba-Li系の酸水素化物の合成に成功し、当該物質が300 ℃以上の温度域で10 mS/cmを越える極めて高いH-導電特性を示すことを見いだした。300 ℃ ~ 350 ℃の温度域におけるBLHOの活性化エネルギーが30 kJ/molを下回っていることを考慮すると、この新物質は中温域でヒドリド超イオン導電体になっていると考えられる。これまでにH-が超イオン導電性を示した物質の報告は無く、本研究によって初めてH-の高速イオン伝導が実現した。BLHOの発見により、当初の計画よりも早くH-インターカレーション材料の探索に研究を展開することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
1. H-超イオン導電体の探索については、BLHOのBaまたはLiを他の元素で置換することで、イオン導電率のさらなる向上と、超イオン導電体に転移する温度を低温下させることを目的とする。さらに、新たに合成した試料の結晶構造とイオン導電率の相関、H-導電機構などを明らかにし、H-超イオン導電体を開発するための物質設計指針を得る。
2. BLHOなど、優れたH-導電特性を示す物質を固体電解質に用い、酸化物やカーボン系電極へのH-インターカレーション反応を検討する。
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