10-100 nm空間を利用して革新的機能を実現するナノ流体工学が発展しつつあり、ナノ流路の時空間流動計測法が求められている。しかし、最小でも20 nm程度のトレーサ粒子を用いる従来の粒子画像流速計(PIV)は、100 nm空間では分解能に乏しく、10 nm空間にはそもそも適用困難である。そこで本研究では、単一分子をトレーサとするナノ空間流速分布計測法、即ち分子画像流速計(MIV)を創成する。 これまでにサイズが制御された高分子であるデンドリマーを用いた単一分子トレーサを開発してきた。末端にサクシニミジルエステル基を有するデンドリマーと蛍光分子の修飾反応により、大きさ14 nmでサイズ・蛍光強度ともに均一な単一分子トレーサをはじめて実現した。これにより、分解能など課題はあるものの、MIVを用いて深さ150 nmのナノ流路の圧力駆動流の流速分布計測にはじめて至った。また、修飾反応における反応回数、反応溶媒、スペーサの導入を改善し、単一分子トレーサの強度を2.2倍に増加させることに成功した。 平成29年度は、MIVによる流速分布計測システムの開発に取り組んだ。しかし、当初のレーザーの全反射を用いたエバネッセント波による計測システムでは、蛍光強度からトレーサの位置を求めるため、蛍光が微弱な単一分子トレーサでは測定における空間分解能の向上に限界があることが判ってきた。一方、研究を進める中で、ナノ粒子のデフォーカス像の形状を用いればナノスケールの分解能をもつ測定が可能であることを見出した。そこで次年度は、MIVによるナノ空間流速分布計測に向けて測定法の検討と実証に取り組む。
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