10-100 nm空間を利用して革新的機能を実現するナノ流体工学が進展しており、ナノ空間の流れの理解のためにナノ流路の流速分布計測が重要である。しかし、粒子画像流速計(PIV)による流れの可視化で利用されるトレーサ粒子のサイズは最小でも20 nmであり、100 nm空間では分解能に乏しく、10 nm空間にはそもそも適用できない。そこで本研究では、単一分子をトレーサとするナノ空間流速分布計測法、即ち分子画像流速計(MIV)を創成する。 昨年度までに、サイズが制御された高分子であるデンドリマーを用いたトレーサ分子を開発した。一方、当初計画ではエバネッセント波による蛍光強度からトレーサ分子の位置を検出する方法であったが、トレーサ分子の蛍光強度が微弱なため、計測誤差が非常に大きいことが判った。 そこで平成30年度は、蛍光強度が微弱なトレーサ分子でも適用可能な流速分布計測の方法を探索した。また、ナノ空間におけるトレーサ分子の挙動が計測条件に及ぼす影響を評価した。昨年度の検討にもとづき、非焦点トレーサ画像の形状を利用した計測原理を考案し、60 nmのトレーサ粒子を用いて10 nmオーダの分解能が可能であることを検証した。本手法は、トレーサの蛍光強度ではなく画像形状を用いるため、蛍光強度が微弱なトレーサ分子にも適用できる。一方、ガラス製ナノ流路への蛍光分子の導入率を測定した。蛍光分子の帯電を負から正に変化させると、ナノ空間濃度/バルク濃度で定義する導入率が50%から200%まで大きく変化することが判った。これは静電相互作用を考慮した計測条件検討の必要性を示しており、また、ナノ流体工学での物質輸送を理解する上で重要な知見である。以上、新たなトレーサ分子位置の計測方法を検証し、ナノ流路におけるトレーサ分子の挙動を明らかにした。
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