研究課題/領域番号 |
15H05511
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
星野 隆行 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 講師 (00516049)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電子線描画 / 倒立電子顕微鏡 / ナノポア / 電気化学 / エレクトロポレーション |
研究実績の概要 |
電子線照射により誘電体中に蓄積される電荷を利用することで電解質水溶液中に局所電界を生成することが出来る.本発表では,この局所電界を動的にパターニングすることにより溶液中のバイオ分子を操作およびその場でパターニングする手法について報告する.倒立型電子線描画装置(I-EBL: Inverted-Electron Beam Lithography)は厚さ100 nmのシリコン窒化膜(SiN)をターゲットとして低加速の電子線走査により2次元の電子線描画を行う装置である. SiN膜は大気圧環境と高真空環境の電子線鏡筒とを隔てる隔壁として作用し,SiN膜上には水溶液や培養細胞などウェットな試料を置くことが出来る.SiN膜は誘電体であるので入射した電子は膜内原子と衝突・散乱しながら運動エネルギーを失い電子飛程の距離で停止し蓄積される.膜厚と加速電圧が適切に選択された場合,たとえば厚さ100 nmのSiN膜に対して加速電圧が2.5 keVの電子を入射したとき1次電子の大部分は約80 nmの深さで停止する.この電子が誘電体内に蓄積され帯電した領域を仮想電極として用いることで,局所的な(1)静電的作用, (2)界面動電現象,(3)電気化学反応,および(4)微少量の透過電子による表面化学反応を生じさせることが出来る.また,この仮想電極に蓄積した電子はSiN膜上部の溶液試料に流れ,電子線照射を解除するとすぐさま除電されるので,生成電界の時間・空間パタンは電子線を走査することにより容易に操作できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電子線走査により形成される仮想電極とそれにより生じる局所電界および局所電流により電気化学的,機械的な操作が可能であるので,DNAなどのバイオ分子の操作・パターニングについての可能性を検討した.その結果,当初目標であった,1)電気化学現象の理解,2)生細胞のひずみ計測,3)生細胞のエレクトロポレーションが可能であることを実証したことに加えて,つぎの4)ナノポアによる溶質の回収などが可能であることを示すことがでた. これは,電子線の直接作用により薄いSiN膜へナノポアをその場で形成することと,仮想電極の静電的作用を組み合わせることを原理としている.任意位置に形成したナノポアの半径約3 μm領域の水溶液を真空側に微少流量吸出し分散粒子・溶質濃度を局所的に濃縮すること,および仮想電極による静電的作用での再分散を交互に繰り返すことが可能であり,粒子・溶質濃度と微少サンプリングを操作できることを意味している.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度までに計測した電気化学現象を基盤としつつ,分散粒子の凝集・電気化学反応の時空間的制御を行う.これらは本来自己組織的な駆動力を内在しているので,本研究の呈示ポテンシャルを適切な字空間パタンで呈示することにより,系本来の自己組織化パタンを任意形状に誘導できる可能性がある.具体的には,水溶液の分散金ナノ粒子・ポリマがイオン液体の塩析効果,電気泳動力により急速に凝集・分散する現象を本手法で制御することを検討する.このように対極的にはトップダウン入力により制御し,分子レベルの局所構造は分子の自己組織化機構を利用する誘導自己組織化現象は,共重合体ポリマの空間的パタンの形成誘導などと共にリソグラフィの分解能を超える次世代半導体技術や,タンパク質を任意の時刻に局所的に回収・精製などが可能ではないかと考えている. また,局所的な電気化学現象を操作できることを利用し,生細胞の電気化学計測や,昨年度から引き続き局所的な分子剥離現象を利用して生細胞の力学的構造計測などを実施する.
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