研究課題/領域番号 |
15H05517
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山ノ内 路彦 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (40590899)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スピン軌道トルク / 酸化物ヘテロ構造 |
研究実績の概要 |
本年度は、TiO2終端SrTiO3基板上に成膜したLa0.67Sr0.33MnO3 (LSMO)薄膜をベースとする酸化物ヘテロ構造の作製、及びそれを用いたホールバー形状素子の作製を行った。続いて、磁界中冷却システムの納入後、本研究のスピン軌道トルク測定で必要となる磁気輸送特性(プレーナーホール効果と異方性磁気抵抗効果)の測定系を構築し、作製した素子の動作を確認した。作製した素子は、先行研究と同様のプレーナーホール抵抗、及び異方性磁気抵抗の面内磁界角度依存性を示すため、期待通りの素子を作製できたと考えている。また、これまでに強磁性金属ヘテロ構造(絶縁体/強磁性金属/重金属ヘテロ構造)におけるスピン軌道トルク測定で用いられてきたホール抵抗の面内磁界角度依存性を測定したところ、わずかな印加電流依存性がみられ、スピン軌道トルクなどの電流誘起有効磁界が作用していることを示唆する結果が得られた。さらに、高精度にスピン軌道トルクを測定するため、強磁性金属ヘテロ構造において実績のあるホール抵抗の2次高調波を用いたスピン軌道トルク測定系を構築中である。 これらと並行して、膜面垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性酸化物を作製した。これまでに膜面垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性金属ヘテロ構造において、多くのスピン軌道トルク研究がなされてきたが、前述の酸化物ヘテロ構造は膜面内に磁化容易軸を有する。膜面垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性酸化物を用いることにより他の材料系での先行研究との比較が容易になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、TiO2終端SrTiO3基板上に成膜したLSMO薄膜をベースとする酸化物ヘテロ構造においてスピン軌道トルクを調べた。その結果、スピン軌道トルク以外の寄与を検討する必要があるが、酸化物ヘテロ構造においてスピン軌道トルクなどの電流誘起有効磁界が作用していることを示唆する結果が得られた。酸化物ヘテロ構造においては、このような電流誘起有効磁界の報告はないため、本結果は酸化物ヘテロ構造におけるスピン軌道トルクの研究の重要な成果と考える。一方で、当初の計画においては、SrO終端SrTiO3基板上に成膜したLSMO薄膜をベースとする酸化物ヘテロ構造についてもスピン軌道トルクを調べる予定であったが、スピン軌道トルクの測定には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
LSMO酸化物ヘテロ構造において観測された電流誘起有効磁界の機構として、電流磁界などの影響を検討し、酸化物ヘテロ構造におけるスピン軌道トルクによる有効磁界の寄与を調べる。また、SrO終端SrTiO3基板上に成膜したLSMO酸化物ヘテロ構造についても、同様にスピン軌道トルクを調べる。SrO終端SrTiO3基板の作製に時間を要する場合には、終端処理していないSrTiO3基板とTiO2終端SrTiO3基板上に成膜したLSMO酸化物ヘテロ構造における結果を比較することで、本研究の目的である界面分極とスピン軌道トルクの関係を明らかにする。これらの酸化物ヘテロ構造においてスピン軌道トルクを観測できない場合には、これまでにスピン軌道トルクが観測されている強磁性金属ヘテロ構造と同様にスピン軌道相互作用の大きな重金属酸化物とLSMOなどの強磁性酸化物を積層したヘテロ構造を作製し、界面分極とスピン軌道トルクの関係を調べる。
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