研究課題
当初の研究実施計画に従い、本年度は以下の2項目を実施した。Ⅰ.強磁性‐反強磁性相転移を生じるL10型FePt系薄膜の開発L10型FePtは高い結晶磁気異方性と良好な耐食性を示すことから将来の磁気記録媒体材料として期待されている。FePtに対してイオン照射型微細加工法を適用するためには、反強磁性相の誘起が必要となる。そこで本研究では、まず反強磁性材料開発として、L10型FePtのFeサイトまたはPtサイトの第三元素置換を行った。実験では秋田高専との共同研究による第一原理計算を取り入れ、反強磁性状態の安定度を評価した。その結果、理論と実験の両面から、FeサイトをMnで置換したL10型(FeMn)Pt薄膜において、記録媒体として必要とされる磁気特性と反強磁性相の室温での安定性の両者を満足することがわかった。Ⅱ.L10型FePt系薄膜へのイオン注入による反強磁性ナノ構造の形成アモルファス材料中での注入イオンの飛程に関してはモンテカルロ法を用いた精度の良い計算コードが公開されているが、上記Ⅰで開発したL10型(FeMn)Pt薄膜はアモルファス構造ではなく(001)面が膜面に対して垂直方向に優先的に配向した結晶構造を有するため、注入イオンの飛程は上記の計算結果とは大きく異なることがわかった。また特定の結晶配向面におけるL10型規則構造の不規則化メカニズムを調べた結果、結晶面の原子面密度と不規則化効率との間には強い相関がみられた。またイオン照射による規則構造の不規則化は、膜表面から底部に向けて進行することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当事業の研究実施計画では、以下の3項目の実施を予定している。Ⅰ.強磁性‐反強磁性相転移を生じるL10型FePt系薄膜の開発(H27-29)Ⅱ.L10型FePt系薄膜へのイオン注入による反強磁性ナノ構造の形成(H27-28)Ⅲ.反強磁性相と強磁性相との間に働く磁気的相互作用の解明(H28-30)当初の計画に従い、本年度は上記ⅠとⅡを実施し、論文発表6件(掲載4件、掲載決定1件、投稿中1件)、学会発表13件(国外5件、国内8件、その内学生による発表5件)を行ったことから、おおむね計画通りに進展していると判断した。
研究実施計画に従い、今後は以下の項目を実施する。なお、本研究の一部は学生の卒業論文・修士論文テーマとして実施する。Ⅰ.強磁性‐反強磁性相転移を生じるL10型FePt系薄膜の開発: 理論計算を併用した材料開発を進める。特に反強磁性化を担う添加元素の最適化に関しては、注入イオンの飛程と拡散係数に関する知見から、最小線幅を実現するための合理的な添加元素を選定する。Ⅱ.L10型FePt系薄膜へのイオン注入による反強磁性ナノ構造の形成: 実験では必要に応じて外部施設の装置を借用して構造解析を行い、注入イオンの飛程や拡散係数の変化、拡散メカニズム等を明らかにする。特に高速熱処理(瞬間加熱・冷却)による長距離拡散の抑制効果について詳細に調べる。形状評価では、次世代磁気記録媒体への応用を視野に入れたドットのポジション分布やサイズ分布の評価を行う。Ⅲ.反強磁性相と強磁性相との間に働く磁気的相互作用の解明: 実験と理論の両面から、反強磁性相が強磁性ドットの磁化反転プロセスや磁気特性に与える影響、統計的な反転磁場分布等を詳細に調べる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 5件)
Physica Status Solidi - Rapid Research Letters
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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