研究課題/領域番号 |
15H05520
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大田 晃生 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (10553620)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光電子収率分光 / 電子状態 / 欠陥準位計測 / 不揮発性メモリ |
研究実績の概要 |
本研究では、半導体表面および絶縁薄膜のエネルギーバンドギャップに相当するエネルギー位置に存在する欠陥準位密度を高感度に定量するために、光源の増築や測定環境雰囲気の制御を行い、真空準位より3eVから9eVまでの幅広いエネルギー帯を分析可能とする光電子収率分光(Total Photoelectron Yield Spectroscopy : PYS)システムを構築することを第一の目的とする。また、その分析手法を用いて、酸化膜中および電極との界面近傍に存在する欠陥密度分布を高精度に評価し、得られた知見を基に、Si酸化膜の酸素組成制御や元素添加を行い、電圧印加によって生じる電気化学反応を制御し、Si酸化膜中の導電性パス形成・消滅の繰り返し動作に対する高い再現性を実現することを目指す。 平成27年度は、既存のPYSシステムに、5eVから9eVのエネルギー範囲を測定可能とする重水素ランプを増設し、キセノンアークランプ(測定エネルギー範囲 3eVから6eV)を加えた2種類の光源を同一の分光器で単色光にするシステムの構築を行った。また、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy : XPS)により、電子占有欠陥のエネルギー分布を議論する際に必要となる電子親和力や価電子帯上端位置等のエネルギ―を定量する方法を探究した。並行して、導電性パスの制御による抵抗変化動作の安定化を目指し、酸素との反応性が大きいTiを材料に用いたナノドットの形成とそれを埋め込んだSiOxの抵抗変化特性を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、既存のPYSシステムに重水素ランプを増設し、キセノンアークランプを加えた2種類の光源を同一の分光器で単色光にするシステムを構築した。しかしながら、PYS測定を行うには、大気中の水分などによる短波長(高エネルギー)領域の光強度の減衰を抑える必要があり、分光システムから試料までの光路の環境・雰囲気を制御しなければいけないことが分かった。 また、電子占有欠陥のエネルギー分布を議論するに必要となる電子親和力や価電子帯上端位置等のエネルギ―をXPS分析により定量する方法を探究した。具体的には、水素終端したSi表面や熱酸化SiO2を用いて、励起光のエネルギーと、二次光電子信号および価電子帯信号のエネルギー位置より、価電子帯上端位置が評価可能であり、光電子エネルギー損失信号により実測するエネルギーバンドギャップを用いることで電子親和力を定量できることを示した。 並行して、導電性パスの制御による抵抗変化動作の安定化を目指し、酸素との反応性が大きいTiを材料に用いたナノドットの形成とそれを埋め込んだSi酸化膜の抵抗変化特性を評価した。Ti薄膜に表面保護膜としてGe膜を積層し、リモート水素プラズマ処理を施すことにより、Tiナノドットを高密度に一括形成できた。Si酸化膜中にTiナノドットを埋め込み、Ni電極を用いたMIMダイオードで抵抗変化特性を調べた結果、動作電圧のばらつきが低減し、ON/OFF抵抗比が増大したスイッチング動作が得られた。これらの結果はTiの酸素との反応性とナノドットの形状と起因した電界集中効果によるものと考えられ、Tiナノドットの導入は、メモリ動作の安定化に対して有効であることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、幅広いエネルギー領域を測定できる光電子収率分光システムの構築を行うために、大気中の水分などによる短波長(高エネルギー)領域の光強度の減衰を抑えることに注力し、分光システムから試料までの光路の環境・雰囲気を精密制御できる機構を整える。これにより、Si酸化膜の価電子帯上端部やバンドギャップ内の電子占有欠陥からの信号が検出可能となる幅広いエネルギー帯での測定を目指す。構築する光電子収率分光システムを用いて、熱酸化SiO2や単結晶Siなどの基礎データ収集を行うとともに、MOSキャパシタの電気特性から見積もられる欠陥密度と比較することで、その定量精度を明らかにする。また、熱酸化だけでなく、化学気相堆積法や電子ビーム蒸着法等で形成したSi酸化膜から得られる特性を比較することで、化学組成やネットワーク構造と欠陥密度の相関を明らかにする。その後、得られた知見をもとに、欠陥制御したSi酸化膜を用いた抵抗変化メモリを作成する。導電性パスと接合界面の影響を切り分けて評価するために、抵抗変化動作前後のキャリア伝導を精密に調べ、伝導メカニズムを明らかにする。これらの成果を踏まえ、抵抗変化現象に寄与する欠陥生成を促進し、かつ、OFF時にリーク電流として機能し得る他の欠陥を終端することを目的として、Si酸化膜中への元素添加や積層化、微細構造の導入を行い、素子の低電圧動作化に取り組む。
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