最終年度は、前年度までに構築した真空準位より3eVから10eVまでの幅広いエネルギー領域を測定できる光電子収率分光(PYS)システムを用いて、半導体および絶縁薄膜のギャップ内準位の定量精度の向上に取り組んだ。異なる厚さの熱酸化SiO2/Si構造からの光電子放出を系統的にすることで、紫外光エネルギーが~6から~8eVの領域で、その光電子脱出深さは約2.4nmであることが分かった。さらに、PYS分析によりみつもった欠陥準位密度はバンド端近傍のエネルギー領域において、電気特性から見積もられる欠陥密度と良い一致を示すことが分かった。 また、Si酸化膜の電気抵抗スイッチングを引き起こす鍵となる電極間の導電性パスの形成と消失を高精度に制御することを目的とし、Si酸化膜をNi電極で挟んだMIMダイオードにおいて、定電圧および定電流の印加による電気抵抗変化を調べた。また、抵抗変化層であるSi酸化膜よりも比誘電率が20倍程度大きいTi系酸化物のナノドットををSi酸化膜への埋め込み、抵抗変化動作に寄与する導電性パスの制御を行った。定電圧印加によるSET動作(高抵抗化)と、定電流印加によるRESET動作(低抵抗化)を組み合わせることで、3桁程度の抵抗比を有する電気抵抗のスイッチングが繰り返し認められた。また、印可する定電流値もしくは定電圧値を増大することで、応答速度が短縮した。さらに、Tiナノドットを用いた場合では、SET動作に要する時間が大幅に減少することから、Tiナノドットによる電界集中に起因し、導電性パス形成が促進したと考えられる。一方、RESET動作では、Tiナノドットの埋め込みによる特性変化は認められず、ジュール熱に起因して導電性パスが消失することを明らかにした。
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