研究実績の概要 |
液晶は、種々の外場に対する応答性を有するとともに、テラヘルツ帯においても大きな屈折率異方性を示すことから、テラヘルツ波伝搬のアクティブ制御素子用材料としての可能性を秘めている。本研究は、申請者が独自に提案したベクトルホログラフィの手法により、光反応性液晶の分子配向を実時間で空間的に制御し、それを介してテラヘルツ波の偏波を時空間で高度に変調する技術の確立を目的に実施している。 平成28年度は、液晶材料がテラヘルツ波の偏波制御に応用可能であることを実証すべく、捩じれ配向を有する液晶セルの偏波変換特性を、透過型テラヘルツ時間領域分光装置を用いて観測した。テラヘルツ波の波長は可視光と比べて3桁程度長いことから、偏波変換のために十分な位相差を与えようとした場合、ディスプレイに用いられるような液晶セル構造と比べ、液晶層を桁違いに厚くする必要がある。本年度は、液晶のテラヘルツ帯における複素屈折率から、テラヘルツ偏波の制御に必要な液晶層の厚さを見積もり、厚さ1 mm程度の捩じれ配向液晶セルを作製した。得られたセルは、シミュレーション結果とおおむね一致する偏光変換特性を示した。また、その偏光変換特性は、電極膜を介して印加した電圧により制御可能であった。このことから、液晶セルによりテラヘルツ偏波のアクティブ制御が実現されることが明らかとなった。なお、本研究においては、導電性高分子であるpoly(3,4-ethylenedioxythiophene)/poly(styrenesulfonate)(以下、PEDOT/PSS)の薄膜をラビング膜として用いた。PEDOT/PSS膜は、液晶テラヘルツ素子のための透明電極としての利用が期待されているが、透明電極兼配向膜として機能することを新規に実証したという点においても本成果の意義は大きいと考えている。
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