液晶は、種々の外場に対して応答性を有するとともに、テラヘルツ帯においても大きな屈折率異方性を示すことから、テラヘルツ波伝搬のアクティブ制御素子用材料としての可能性を秘めている。本研究は、申請者が独自に提案したベクトルホログラフィの手法により、光反応性液晶の分子配向を実時間で空間的に制御し、それを介してテラヘルツ波の偏波を時空間で高度に変調する技術の確立を目的に実施している。 平成29年度は、液晶材料が光駆動型のテラヘルツ波伝搬制御素子に応用可能であることを実証すべく、検討を進めた。可視光を吸収する色素を少量添加した低分子ネマチック液晶を研究の対象とし、第一に、そのテラヘルツ帯における光学定数を時間領域分光システムにより計測した。結果として、常光に対する複素屈折率、異常光に対する複素屈折率ともに、色素を添加ていしないネマチック液晶と同程度であることが分かり、色素ドープ液晶がテラヘルツ素子へも利用できることが明らかとなった。また、色素ドープネマチック液晶を用いて捩じれ配向の液晶セルを作製し、そのテラヘルツ帯における透過スペクトルを、色素が吸収を有する波長域の可視光レーザーを照射しながら観測した。作製した液晶セルは、その捩じれ配向に起因してテラヘルツ波の偏波を変換したが、十分に高い強度のレーザー光を照射している間は、入射テラヘルツ波が偏波状態を変えずに透過した。この原因は、色素が光を吸収することで液晶が等方相へと転移したためと考えられた。この検討によって、色素ドープ液晶により光駆動型のテラヘルツ偏波制御素子の得られることが実証された。動作の応答速度についても検討を行い、平成28年度に行った電圧駆動の場合に比べて、立ち上がり、立下りともに高速化されることが確認され、光駆動型液晶テラヘルツ素子の有用性が示された。
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