本年度の研究内容としては、①電流増大のための等電子トラップ(IET)形成条件の最適化、②電流増大のためのIETの高濃度化、③新機能素子として量子ビット応用の検討の3項目を実施した。 ①についてはイオン注入後の低温アニールプロセスについて、温度と時間の最適化を行った。その結果、450℃で24時間のアニール処理が最適であることがわかった。また、本実験からはIET形成の動的機構が明らかとなった。これはイオン注入による空孔欠陥の形成、アニールによる空孔欠陥の変体および空孔欠陥の回復という過程を伴うもので、ミクロスコピックな原子移動によってIETが形成されていく様子が実験的に確認されるとともに、各工程の活性化エネルギーも明らかとなった。本結果は現在論文を投稿し査読を受けている。 ②については高温イオン注入によって結晶のアモルファス化を避けつつ高濃度にIETを導入しようという試みであった。本実験では想定通りアモルファス化を回避しつつ高濃度化に成功した。しかしながらトンネルトランジスタ(TFET)形成プロセスに導入した場合、ソースおよびドレインの抵抗が著しく上昇すること、またペアを形成しないAlが活性化率が低いもののアクセプタとして働いたためにチャネルキャリア濃度が大きく変わることが確認された。そのために良好なTFETが確認されず、実デバイスへの適用上プロセスの改善が必要であることが分かった。 ③については引き続きIET援用TFETの量子ビット応用を検討、本年度は10Kでの動作に成功した。これは電子素子型スピン量子ビットとしては世界最高の動作温度であり、現在論文を投稿し査読を受けているところである。本結果については応用物理学会において部分的に報告をしている。 昨年度の成果について複数の招待講演を受けると共に、レビュー論文の依頼があり発行したことも本年度の特筆すべき成果となっている。
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