本研究では、実験データが僅少である木造の社寺建築物について、より精度の高い耐震性能評価法を構築するとともに、伝統技術に基づく耐震補強構法を考案することを目的とし、既存建物の調査、耐震要素の実験、補強法の提案ならびに検証実験、建物全体の構造解析による性能検証までを実施することを目指している。 平成28年度までに実施した板壁構面の水平せん断加力試験結果から、板壁が圧縮抵抗することで周辺の軸材に過大な応力が発生し、その結果として貫接合部を含む周辺の軸組の変形挙動や破壊挙動に大きな差が生じることを明らかにした。これは平成29年度に実施した振動台試験体においても同様の結果が確認され、板壁を含む軸組試験体で実施した加振では、加振直後に楔が緩む様子を目視で確認することができた。楔が緩むことで接合部の緊結度が低下し、その結果として接合部の曲げ特性や板壁の抵抗特性が低下することを明らかにした。また、三次元の有限要素解析と併用することで柱の傾斜復元力特性についても考察を行った。特に板壁構面を併用することで、柱には大きな曲げモーメントが生じるが、軸力と部材形状によって定まる柱の傾斜復元力特性には板壁など他の耐震要素による影響が小さいことを明らかにした。 さらに、平成27年度より実施してきた既存建物の構造調査において、新築の木造三重塔の調査を行い、常時微動計測によって建設過程における固有値の変化を観測することができた。また、重要文化財に指定される既存の寺院建築の改修工事現場の詳細調査を実施し、一般的に耐震設計の際に質点系と呼ばれる簡易なモデルに置換される寺院建築の小屋組の地震時挙動を常時微動計測や解析から明らかにし、質点系モデルへの置換が成立しないことを明らかにした。
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