研究実績の概要 |
本申請課題では3d 遷移金属に焦点をあて,現在まで未発見であるFe, Co, Ni の多窒化物(MN2;M=Fe,Co,Ni)の合成と結晶化学の理解及び,その電子物性の解明を目的として研究に取り組んだ.本申請課題以前の研究では、上記遷移金属元素は,常圧下において金属比率が高い窒化物しか形成されないとされてきた.一方,2000年に入りギガパスカル領域における超高圧高窒素雰囲気下では,白金族元素や前期遷移金属元素は窒素比率が高い多窒化物(MN2, M=遷移金属元素)を形成し,これら多窒化物には,金属-窒素間および窒素-窒素間の特異な結合に起因する超硬質性や,絶縁体/半導体/金属などの多様な電子物性が出現することが明らかにされた.多窒化物の合成において超高圧技術は現在のところ唯一無二の手法である.本研究では申請者が長年かけて培った超高圧直接窒化法を適応することで未発見であった後期遷移金属(Fe,Co,Ni)の多窒化物の創製とその電子構造の解明を明らかにした.具体的には60 GPaまでの圧力領域における超高圧直接窒化反応実験の結果,FeはNiAs型FeNを形成し,Coはmarcasite型CoN2を形成することが明らかになった.またNiとCuも超高圧下でそれぞれmarcasite型とCdI2型を形成するが,減圧過程で相転移もしくは分解したため常圧下における準安定性が低いことがわかった.これら後期遷移金属窒化物は全て新規物質で,構造の特徴から金属元素が窒素に対して高配位していることがわかった.また,一見これらの新規窒化物の構造間には相関が無いように思われていたが,窒素の配列も最も密な六方細密充填を基本としていることがわかった.また第一原理計算からFeNおよびCoN2が強磁性を示す可能性が高いことも明らかになった.
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