物質が金属であるか非金属であるかは、温度や圧力などの環境条件によって変化する。これまでに、この金属-非金属転移が起こる主要パラメーターを外部圧力ではなく、カーボンナノチューブ(CNT)の一次元ナノ空間がもたらす特異なコンファイメント効果を利用することで、単体硫黄が一次元伝導体となることを明らかにしてきた。一方、一次元硫黄/CNT複合体(S@CNT)の超伝導化は未だ実現されていない。そこで本研究では、これまで実現が困難とされてきた「電気分極を利用した高温超伝導モデル」に着目し、1.そのメゾスケール構造を再現するS@CNTの作製:「電荷介在型の一次元硫黄/CNT複合体」、および 2.メゾスケールの電気特性を調べるためのオリジナル分析装置の開発を目的として研究を進めた。 本研究がめざす超伝導化機構の発現には、CNT内部に捉われた一次元硫黄に対し、CNT壁を介していかに電気的な相互作用を付与できるかが要となる。本年度は、気相導入法によりヨウ素イオンが隣接するS@CNTの間隙に挿入できること、またバルク体における分光特性や電気特性を明らかにすることに成功した。さらに物質創製と並行して、本研究課題に必須となる分析装置の開発を進めた。具体的には、メゾスケールにおけるCNTロープの直接観察および電気特性評価を同時に計測可能な分析システムを構築した。これにより、単一「電荷介在型の一次元硫黄/CNT複合体」の電気特性を四探針法により調べることが可能となった。 また、S@CNTが研究開始の当初は想定していなかった「フレキシブル/マイクロLi-S電池」の正極材料として有望であることが明らかとなり、本研究で追及した物質系の新しい応用展開を見出すことにも成功した。
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