本研究は、申請者独自の水素化物薄膜合成技術を駆使して高品質界面を作製し、水素化物の電子やイオンの挙動を界面で制御して、水素化物エレクトロニクスという新しい分野の開拓を目指すものである。昨年度(平成27度)は、強固な研究土台を構築するために、高純度な水素ガスや高活性な水素プラズマを利用できる水素化物薄膜合成用の専用装置を開発した。また、薄膜成長温度や成長時の水素ガス分圧が膜質に及ぼす効果などを調査して、高品質薄膜合成のノウハウを構築した。今年度(平成28年度)はこれらの研究基盤を活用して、従来技術では合成不可能であった3種類の水素化物(LiBH4、BaH2、MgH2)のエピタキシャル薄膜成長に成功した。これらの薄膜成長の詳細を以下に記す。 LiBH4は液体電解質並みの高Liイオン伝導率を示し固体電解質として期待される水素化物である。そのため、多くの研究者が薄膜化に挑戦してきたが、成功例は皆無であった。一方申請者は、蒸発過程を精密に制御することでLiBH4の薄膜化に成功した。BaH2は、新しいイオン伝導として注目されているヒドリドイオン(H-)伝導を示す水素化物である。これまで薄膜成長例は皆無であったが、本研究では成長温度および水素ガス分圧の制御ノウハウを適用して膜成長に成功した。MgH2は界面キャリアドープにより転移温度250 K以上の高温超伝導を示すと期待される材料である。本研究では、水素プラズマ中で成膜を行うことでMgと水素の反応を促進して、膜成長に成功した。 以上の成果により、Liイオン伝導体であるLiBH4およびヒドリドイオン伝導体であるBaH2を用いた界面キャリア注入による電気物性開発が可能となった。そこで現在、MgH2/LiBH4界面およびMgH2/BaH2界面を利用したMgH2へのキャリア(電子、正孔)注入による絶縁体-金属転移や超伝導の発現に挑戦している。
|