研究課題/領域番号 |
15H05551
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
横田 有為 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 准教授 (60517671)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 難加工性合金 / 線材化プロセス / マイクロ引き下げ法 |
研究実績の概要 |
自動車のスパークプラグ等に用いられるイリジウム合金は高特性を有するにも関わらず、加工性の悪さゆえに既存の成型法を用いると製造コストが高く製品価格が上昇してしまう。そこで、我々は機能性合金のニアネット形状の結晶を一工程で作製するマイクロ引き下げ法といった、これまでにはない新技術を開発した。しかし、当該技術を量産技術として実用化するにはまだ多くの課題が残っている。そこで、本研究課題では、マイクロ引き下げ法による難加工性合金材料の形状制御結晶製造技術を実用化するため、長尺線材の製造技術、製造速度の高速化、加工不可合金の線材製造、製造線材の特性評価を実施する。 平成27年度は、まず長尺Ir合金線材製造技術の開発を行った。これまでは作製できるIr合金線材の長さは100 mm程度であり、当該技術を実用化するには、より長尺な線材を作製できるように装置を改良する必要がある。そこで、既存のμ-PD装置の改造を行い、従来のシードチャックを用いた方式からピンチローラーによる結晶育成方式に変更した。これにより、チャンバー内から育成した線材試料をチャンバー外部に取り出すことができるようになり、7 mもの長尺な線材の作製を達成し、量産化の目標である10 mに大きく近づいた。 さらに、線材作製速度の高速化も試みた。現状では10 mm/minが線材作製の最高速度であるが、当該技術が既存法に勝る量産技術となるには200 mm/min以上の育成速度の達成が必要となる。製造速度の高速化は、固液界面周辺の温度勾配と坩堝の設計により達成することとした。さらに、試料の径制御を行う坩堝のノズル部分を中間配合ZrO2から緻密質ZrO2に変えることで線材製造時の壁面の摩擦を低減し、引き下げ速度の高速化と形状制御性の向上を目指した。その結果、本研究開発の目標値である200 mm/minの育成速度を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度は、【1】長尺Ir合金線材製造技術の開発と【2】線材作製速度の高速化を中心に開発を行った。 まず【1】では、これまでは作製できるIr合金線材の長さは100 mm程度であり、当該技術を実用化するには、より長尺な線材を作製できるように装置を改良する必要があった。そこで、既存のμ-PD装置の改造を行い、従来のシードチャックとベローズを用いた引き下げ方式からピンチローラーによる結晶育成方式に変更した。これにより、従来の装置では引き下げ距離である700 mm以上の試料作製が不可能であったが、チャンバー内から育成した線材試料をピンチローラーを用いてチャンバー外部に取り出すことができるようになった。作製した試料をOリングでシールすることで、チャンバー内の雰囲気を保ったまま作製した試料を外部に取り出せるようにした。当初はピンチローラーの素材にSUSを用いていたが、SUS製ピンチローラーで挟まれた作製線材が変形してしまった。そこで、ピンチローラーをテフロン製に変更した。さらに、開発した巻き取り機によって育成速度に合わせて巻き取ることで7 mもの長尺な線材の作製を達成し、量産化の目標である10 mに大きく近づいた。 さらに【2】では、現状で10 mm/minが線材作製の最高速度であるが、当該技術が既存法に勝る量産技術となるには200 mm/min以上の育成速度の達成が必要であった。そこで、本開発項目では、200 mm/min以上の育成速度での線材作製を目標とした。製造速度の高速化のため、固液界面周辺の温度勾配と坩堝の設計を新たに行った。さらに、試料の径制御を行う坩堝のノズル部分を中間配合ZrO2から緻密質ZrO2に変えることで線材製造時の壁面の摩擦を低減し、引き下げ速度の高速化と形状制御性の向上が向上した。その結果、本研究開発の目標値である200 mm/minの育成速度を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度では、【1】長尺Ir合金線材製造技術の開発において、7 mもの長尺な線材の作製を達成したことから、平成28年度では、本研究開発の目標である10 mを達成するべくさらに開発を行う。具体的には、試料作製に用いた合金原料のチャージ量を追加することで更なる長尺化を目指す。7 mの長尺線材を作製した際には、試料作製が終了してしまった原因として原料供給不足が考えられるため、原料のチャージ量を増加させることで作製できる試料の長さが増加することが期待できる。 さらに、【2】線材作製速度の高速化では、平成27年度に既に目標値である200 mm/minを達成したが、更なる高速化も可能であると考えられるため引き続き開発を行う。作製速度の高速化は、そのまま量産化における製造量に直結するため、製造速度が高速化する程、低コストで線材を作製可能な技術が確立する。 さらに、平成28年度からは、【3】加工不可合金材料の線材結晶作製技術の開発と【4】作製した線材試料の特性評価も実施する。【3】では、これまでの既存加工法では線材化が不可能であったRu等を含有する合金の線材結晶作製技術を開発する。坩堝設計、育成速度、温度勾配等はこれまでの研究成果を基に検討し、最適な線材育成条件を探索する。【4】では、作製した線材合金材料に関して、研究室所有の粉末X線回折においてその相の同定、X線ロッキングカーブ法により結晶性を評価する。さらに、ラウエカメラと極図測定を用いて試料の結晶方位を調べる。また、EPMA等によりその化学組成分析を行うことで、結晶の化学組成を評価する。また、スパークプラグ用線材として重要となる酸化耐性を調べるとともに、他の応用でも重要となる加工性や破壊耐性等に関しても評価する。上記の評価結果は、直ちに【1】~【3】にフィードバックすることで効率よく開発を行う。
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