研究課題/領域番号 |
15H05552
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
日出間 るり 神戸大学, 工学研究科, 助教 (20598172)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 化学工学 / レオロジー / 複雑流体 / 非ニュートン流体 |
研究実績の概要 |
本研究は,低濃度高分子溶液の複雑な流動挙動は,nmスケールにおける高分子と水の相互作用が,um,cm,mスケールという上位の階層に影響を及ぼす複雑系であると考え,それを実験的に証明するのが目的である.低濃度高分子溶液の挙動を階層構造(複雑系)で説明できれば,これまで別々に理解されていた高分子1本の挙動と,乱流抑制,弾性不安定性,溶液の伸長粘度といった,umからmスケールまでの各階層の高分子溶液の挙動を結びつけることができる.目的を達成するため,まずは複雑流体である低濃度高分子溶液の流動挙動を,各スケールで観測・解析できるシステムを構築している.28年度は以下の項目を達成した. (1)mスケールの実験では,薄膜干渉流動画像法(FIFI)とPIV法から得られる情報を統合し,二次元乱流に屈曲性高分子が与える影響を調べた.乱流抑制が生じる際,高分子溶液の伸長流動下の緩和時間が,二次元乱流場での渦の発生周期・減衰に影響を与えていることを定量的に明らかにした. (2)cmスケールの実験では,自作の伸長粘度測定器を開発し,低濃度高分子溶液の伸長粘度を測定した.高分子の種類により伸長粘度の特性は異なった.この特性は,溶液の緩和時間の観点から説明できる.現在は,装置の測定限界を見極めるため,装置内の溶液の流動挙動に関する検討を行っている. (3)umスケールの実験では,粘弾性の強い生体高分子溶液を用い,マイクロ急縮小急拡大流路における弾性不安定発生の臨界点を定量化する手法を提案した.また,屈曲性の異なる数種の高分子を用いて同様の実験を行った.現在は,臨界点を定量化する手法が全ての高分子に適用可能か検討中である. (4)nmスケールの実験では,走査型プローブ顕微鏡(SPM)に流路を組み込み,カンチレバーに付着した高分子流動抵抗の試験的測定,および,光ピンセットシステムの構築を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画通り,順調に進展している.mスケールでは,高分子溶液の伸長流動下での緩和時間が渦の生成周期・減衰過程に影響を与える現象を発見し,定量的に評価した.cmスケールの高分子溶液の伸長粘度測定に関しては,測定限界を見極め,試作機を作製する段階まで達している.umスケールの弾性不安定現象は,臨界点を定量化する方法を提案し,全ての高分子溶液に適応可能か検討する段階である.nmスケールの実験は,マイクロレオロジーが測定可能な装置を作製し,準備実験を行った.以上の観点から,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
1.mスケールの二次元乱流に現れる高分子効果の解明:二次元流動場での薄膜干渉流動画像法(FIFI)を用いて,高分子溶液で乱流抑制が起きる際のメカニズム解明を目指している.29年度は,乱流抑制が起こる際,高分子がどのサイズの渦に影響を与えるかを検討する.そのために,二次元流動場に設置する格子のサイズを変え,発生する渦のサイズを変化させたうえで,高分子の影響を観察する.また,渦の形状を定量化するための画像解析プログラム,乱流の周期性を解析するプログラムの開発を行う. 2.cmスケールの伸長粘度に現れる高分子効果を実測する伸長粘度測定器の開発:シリンジ型急縮小流路に溶液を流し,急縮小部分での圧力損失を測定することにより,低濃度溶液の伸長粘度を測定する方法を開発している.29年度は,溶液の流動挙動に基づく誤差を明らかにし,溶液の粘弾性特性に依存する測定範囲を明らかにする.そのため,様々な粘弾性溶液を流し,流動挙動を観察し,それぞれの溶液の流動挙動と,伸長粘度測定値の関係について明らかにする. 3.umスケール弾性不安定に現れる高分子効果の解析:マイクロ流路での,高分子溶液の弾性不安定発生メカニズムについて検討している.29年度は,粘弾性特性が異なる溶液について,流動挙動を整理できるか検討する.また,流路内の圧力損失測定による,流動挙動変化の定量化を目指す. 4.nmスケールでの高分子流動抵抗装置の開発: nmスケールでの高分子と水の相互作用を測定できる手法の確立を目指している.29年度は,走査型プローブ顕微鏡(SPM)で測定された高分子流動抵抗の検証,光ピンセットによる高分子溶液のマイクロレオロジー測定を行い,高分子と水の相互作用測定につなげたい.
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