研究課題/領域番号 |
15H05553
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
長澤 寛規 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (30633937)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 膜分離 / ハイブリッドシリカ膜 / 多孔性無機膜 / 大気圧プラズマCVD / 気体分離膜 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,大気圧プラズマを援用して多孔質支持体上に有機無機ハイブリッドシリカ膜を作製することである.平成27年度は,アルミナ多孔質支持体上にナノ細孔を有する中間層を作製し,その上にプラズマ気相重合法を用いてシリカ膜の作製を行った. 中間層の作製にはシリカ-ジルコニアゾルを用い,ゾルゲル法により平均細孔径1 nmの中間層を得た.得られた製膜支持体上に,大気圧プラズマを援用した重合反応を利用して有機無機ハイブリッドシリカ分離層を形成した. 平成27年度は,最も簡便で生産性の高い製膜法であると考えられるシリカ前駆体を気相重合させることにより分離層を得る手法を中心に検討した.放電ガスとしてアルゴンあるいは酸素/アルゴン,窒素/アルゴン混合ガスを用いて大気圧プラズマを発生させ,その中でシリカ源であるヘキサメチルジシロキサンを重合させハイブリッドシリカ膜を得た. 放電ガス種中に酸素あるいは窒素を混合することにより反応雰囲気を変化させると,酸素を混合した時には無機的なシリカ構造,窒素を混合した時には有機無機ハイブリッド構造の膜が得られることを明らかにした. 得られたハイブリッドシリカ膜の気体透過特性を評価した結果,放電ガスに窒素/アルゴン混合ガスを用いた場合に気体選択性を有する膜が得られることが分かった.He/N2およびHe/SF6透過率比はそれぞれ最大で100及び800を示し,大気圧プラズマを用いて分子ふるい性を有するハイブリッドシリカ膜を製膜可能であることを世界で初めて明らかにした. また,高温での安定性を評価した結果,大気圧プラズマハイブリッドシリカ膜は室温で製膜を行ったにも関わらず,200度まで昇温しても分離性能のを示すこと,昇温前後の室温におけるガス透過性能に変化がなく,極めて安定であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ,研究は計画通りに進んでいる.平成27年度はプラズマの放電状態が膜性能に及ぼす影響について重点的に検討を行っており,酸化的あるいは還元的な雰囲気で放電を引き起こし,製膜を行うと膜構造や分離性能を大きく変化させることができることが分かった.本研究が目標とする大気圧プラズマによるシリカ系分子ふるい膜を得るための製膜条件を見出すことが出来ており,順調に研究が進展していると考える.今後は,更なる選択性と透過性の向上を目指して,前駆体の影響や製膜条件の精密な最適化を行う必要がある.また,将来的な大面積化を見据えた製膜システムの構築も行う必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は気相重合法による製膜を中心に検討した.分子ふるい性を示す膜が得られた一方で,前駆体をプラズマ中で反応させ,それを基材上に堆積させる本製膜法では,気相で成長した粒子に由来する粒子間隙等の分子ふるい性を持たない透過パスが生じてしまうことが問題であることが分かった.このため,平成28年度以降は分離性能のさらなる向上を目指して,膜構造の精密なチューニング法を検討する.具体的には2種類の前駆体を同時に供給し,それらを共重合させてハイブリッド構造を作製する二成分重合法を検討する.例えばシリカ源であるヘキサメチルジシロキサンと炭化水素系化合物を共重合させることで,ポリマー相を持つ柔軟な構造を得ることが期待でき,欠陥のない連続相を形成し製膜性を向上させ得ると考えている.また,ポリマー層部分を製膜後に熱処理して取り去ることにより,高空隙率で透過性の高い膜を得るスキームについても検討する. また,当初計画どおり,製膜支持体の多孔構造の最適化についても検討する.大気圧プラズマにより作製する分離層と中間層の親和性は,得られる膜の性状に大きな影響を与えるものと考えらせるので,平均細孔径の制御や中間層への有機基の導入による親疎水性制御について検討を行う.さらに,将来的な大面積化を見据え,放電電極を精密XYステージに固定した可動式放電電極を作製して大面積製膜の検討を行う.
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