研究課題/領域番号 |
15H05556
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中島 清隆 北海道大学, 触媒科学研究所, 准教授 (90451997)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 固体酸塩基触媒 / バイオマス変換 / 乳酸 / 環境調和型プロセス |
研究実績の概要 |
食料と競合しない木質系バイオマスは新たな化学資源として注目されており,その構成成分である糖類は食品,医薬品の原料となるだけでなく,フラン類や有機酸を経由し高分子の原料を含めた様々な基幹化学品に変換することができる.本研究では酸性酸化物(酸化ニオブ)と塩基性酸化物(酸化イットリウム)で構成される複合酸化物(YNbO4)にターゲットを絞り,その酸塩基性質の解明と水溶液内におけるグルコース変換反応の触媒活性を検討した.ニオブの水溶性過酸化物錯体と硝酸イットリウムによる液相沈殿法によって,YNbO4の前駆体であるアモルファスの白色沈殿が合成できる.この白色沈殿は結晶性YNbO4と同様の組成と4配位ニオブ(NbO4 tetrahedra)を含む構造体であり,100 m2 g-1程度の高い表面積を持つ.赤外プローブ分光法によって表面の酸塩基性質を評価したところ,この酸化物表面にはルイス酸およびルイス塩基サイトが共存していること,さらにその酸塩基サイトの一部が隣接した状態で存在していることが分かった.非晶質のYNbO4はルイス酸性と強い塩基性を有しているが,その塩基性質は結晶化に伴う構造変化によって大幅に低下することが分かった.非晶質YNbO4はルイス酸とルイス塩基性質を併せ持つ二元機能触媒であり,この非晶質YNbO4をグルコース水溶液に加えて加熱したところ,約20%の収率で乳酸が生成することが分かった.グルコースから乳酸を合成するためには多段階の酸塩基触媒反応を進行させる必要がある.YNbO4の特異的な触媒作用は,Nb2O5のルイス酸性とY2O3のルイス塩基性を単一酸化物に付与したことに起因していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グルコースからの直接乳酸生成を可能とする固体触媒は報告例が少なく,既報の最高収率は40%程度である.そのため,複合酸化物をベースとした固体酸塩基触媒の開発を継続することによって選択的にグルコースを乳酸へと変換できる触媒反応プロセスが開発できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
我々はすでに酸化ニオブに由来するルイス酸性質は水溶液内での糖変換反応に有効であることが報告されており,その触媒作用に格子酸素に由来する塩基性を付与することによって酸塩基の両機能を持つ触媒が開発できることが分かった.これまでの単純酸化物では制御が難しかった逆アルドール縮合反応を含む糖変換反応系を構築するため,ニオブをベースとした複合酸化物触媒の開発を継続する.具体的には希土類元素を中心とした3価のカチオンの複合酸化物を合成し,その酸塩基性質を水溶液内でのグルコース変換反応にて評価する. また,YNbO4に関しては後処理による高活性化の検討や,グルコースから乳酸を合成する反応機構について詳細に検討する.グルコースから乳酸を合成するためには多段階の酸塩基触媒反応を進行させる必要があり,具体的には①グルコースの異性化によるフルクトース生成(ルイス酸),②逆アルドール縮合反応によるフルクトースからトリオースの生成(ルイス塩基),③トリオースの脱水によるピルブアルデヒド生成(ルイス酸),④ヒドリド移動型異性化反応によるピルブアルデヒドからの乳酸生成(ルイス酸)で構成される逐次反応となっている.ただし,ニオブをベースとした固体ルイス酸触媒によるグルコース変換反応ではフルクトースを経由しない経路が提案されているケースがあり,今回の乳酸合成経路についても提案されている反応機構と異なる可能性が高い.反応機構の解明は触媒設計指針を得るために重要な要素となるため,重水素によってラベルされた基質などを用いた実験によって実験を進める計画である.
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