現在,宇宙大量物資輸送用として,輸送コスト削減のために燃費がよい電気推進機の大出力化が進められている.それに伴い,その放電のための電子源であるホローカソードの大電流化も必要であり,研究代表者らはそれを開発,作動試験を行い,大電流取得の実証を行った.その際,着火から時間が経過するとともに,振動作動から安定作動に遷移する現象が見出された.作動が不安定であると,電子源自身の寿命の他,電源や他の宇宙機搭載機器に悪影響を及ぼす可能性がある.本研究の目的は,その作動安定化のメカニズムを明らかにし,着火後即安定作動する設計指針を見出すことである. 具体的には,<1> どのような作動条件の場合,時間変化によって遷移するのかを明らかにすること,<2> そこで得られた条件下にて,推進機内部のプラズマ諸量の分布の観測を行うこと,<3> その結果を元に,数値解析コードを構築し,振動が収まるメカニズムを解明すること,<4> 得られた結果を元に即時安定作動とするための指針を見出し,それを実証すること,の4点であるを行う計画である.平成28年度は,このうち,<2>と<3>の一部にあたる以下二点を行った.すなわち,<2><1>で明らかになった安定・振動作動領域の双方について,内部のプラズマの構造をプローブによって診断し,安定作動時は電子源出口に向かって指数関数的に数密度が増加すること,振動作動時には出口付近にて数密度が降下することがわかった.また,<3>内部の状態を模擬するPIC法を用いた数値解析コードの開発もおこなった.これらの結果から,安定作動のためには引き出し電子電流に対して,電離等による十分な電子供給が必要であることが明らかになった.
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