研究課題
平成27年度には主に以下に述べる3つの事柄に取り組んだ.1)若手研究(B)で開発した格子生成プログラムと圧縮性流体解析法を基礎とし,プログラム構築環境と計算環境を充実させた.また二次元コードをのMPI並列化を行い,三次元コードの並列化の方針を立てた.2)物理ベースの物体壁面境界条件を構築し,定常乱流モデルとの連成について研究を行った.従来,高レイノルズ数・圧縮性流れにおいて,乱流境界層内の速度分布や壁面摩擦応力等,全てを満足する手法が提案されていなかった.そこで,本研究では,Spalart-Allmaras乱流モデルに基づく壁関数モデルに対して,流体解析において仮想的に壁面位置の精度向上させる新しいカットセルベースの手法を提案し,その精度検証を実施した.その結果従来は困難であった,壁面と格子線が一致しない一般的な場合においても平板乱流境界層が正確に再現できるようになった.この新しい境界条件を用いて遷音速翼型周り流れの検証計算を実施し,衝撃波位置等が定量的に一致することが確かめられた.3)階層型直交格子法に適した高次精度スキームの構築に関する研究を実施した.変数の再構築を複数ステップの最小二乗法に分割し,反復計算を導入することで,隣接セルのみの参照で任意の精度の変数分布を得る方法を提案した.各ステップは1次の最小二乗法であるので,計算量およびメモリ消費が小さく,また実装が簡便である.さらに,時間依存問題では,前時間ステップで再構築された値を次時間ステップにおける再構築の初期値として用いることで,効率的な収束を可能とした.
2: おおむね順調に進展している
プロジェクト開始時の目標通り,新しい壁面境界条件の検討を行った.その結果,従来の壁面条件では再現できなかった,高レイノルズ数における平板乱流境界層流れ解析が可能となった.直交格子法では,壁面境界条件の与え方がキー・テクノロジーであることから,本成果は本プロジェクト進めるにあたり,非常に大きな一歩である.また,今後大規模解析を実施するにあたり実装する必要のある,MPI並列化についても,二次元コードの並列化に成功し,三次元プログラムについても並列化の目途がたった.プロジェクト1年目であるが,11件の口頭発表(内国際学会4件)に加え,査読論文(和文1本)による成果も出ており,順調に進展している.
今後は,三次元流体解析プログラムのMPIによる並列化に取り組む.研究室所有のマルチコア・ワークテーションや,東京大学情報基盤センター保有の大型計算機で計算を可能とすることにより,より大規模な問題へ挑戦できる環境を整える.また,本年度開発したカットセルベースの手法から得られた経験を活かし,階層型直交格子に埋め込み境界法を組み合わせた場合でも利用可能な定常乱流モデルの開発に取り組む.他にも,現時点で出来上がったコードを用い,二次元翼型周りの流れの解析や三次元翼端近傍流れの詳細解析など,応用研究を進める予定である.
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)
日本航空宇宙学会誌論文集
巻: 64 ページ: 200-207
10.2322/jjsass.64.200
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/rinoielab/welcome/