研究課題
本研究は、核融合炉ブランケット筐体および燃料回収系の配管からのトリチウム透過を低減するためのセラミックス被覆について、これまで知見が皆無だった種々の放射線による被覆中の水素同位体透過に与える影響を明らかにすることを目的としている。2年目の本年度は、整備したガンマ線照射下水素同位体透過装置を用いて、核融合炉材料および酸化エルビウム被覆を施した材料のガンマ線照射環境下における水素透過挙動を調べた。未被覆の低放射化フェライト鋼においては、照射中に透過の増加が初めて観測された。重水素を導入しない状態での照射中の四重極型質量分析計の重水素イオン電流の変化は、重水素導入時の変化より十分に小さかったことから、ガンマ線照射による核融合炉材料中の水素同位体透過の増加が確認された。また、透過の増加量が元の透過フラックスに比例することがわかった。さらに、線量率依存性、温度依存性、圧力依存性が明らかになり、ガンマ線が透過のどの素過程に影響を与えたか、より詳細な考察を進めている。一方で、真空アーク蒸着法および有機金属分解法で作製した酸化エルビウム被覆試料では、照射中に透過フラックスが増加しなかった。これは、酸化エルビウム被覆がガンマ線照射効果を低減する可能性を示唆している。イオン照射効果に関しては、タンデム加速器で鉄イオン照射した酸化エルビウム被覆の微細構造分析と重水素透過試験を行った。600℃で0.01、0.1、および1 dpaの損傷密度を与えた試料の重水素透過試験では、低温での初期の試験において重水素透過フラックスが1~2桁ばらついたが、500℃以上ではいずれの試料も同等の値を示し、またこの値は非照射試料よりも低かった。これは、鉄イオン照射による照射損傷の導入と同時に、600℃で加熱することによる原子の再配列が起こり、照射前より水素の通りにくい粒界構造に変化したためと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
材料中の水素同位体透過のガンマ線照射効果については、様々な特徴的な現象が観測され、当初の計画以上に進展した。一方、中性子照射については照射設備の安全審査のため未だに実施できていないため、より高い損傷量が得られる重イオン照射を中心に研究を進め、照射損傷が水素同位体透過に与える影響が明らかにされた。
ガンマ線照射効果については、透過のどの素過程に対してガンマ線が促進しているのか詳細を明らかにするために、透過挙動の律速過程を中心に各種金属およびセラミックス被覆試料を用いて検討を続ける。イオン照射効果については、鉄イオンによる照射損傷に加えて、核変換ヘリウムによる影響を進める。さらに、損傷量を増加させた試料を作製し、より実用環境に近い条件での透過挙動を調べる。
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Fusion Engineering and Design
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.fusengdes.2017.03.154
10.1016/j.fusengdes.2017.03.123
10.1016/j.fusengdes.2017.01.016
Nuclear Materials and Energy
巻: 9 ページ: 529-534
10.1016/j.nme.2016.06.009
https://tdb.shizuoka.ac.jp/RDB/public/Default2.aspx?id=11119&l=0
http://researchmap.jp/takumichikada/
https://wwp.shizuoka.ac.jp/chikadalab/