研究課題/領域番号 |
15H05563
|
研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 篤史 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (10581051)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | プラズマ・核融合 / ナノ材料 / プラズマ加工 / 分子動力学 / ハイブリッドシミュレーション / シミュレーション / 物性理論 / 数理物理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はヘリウム照射で誘起されるタングステンをはじめとする各種金属表面のナノ構造形成のメカニズムを理論シミュレーションによって解明することである。そのために分子動力学(MD)、二体衝突近似法(BCA)、密度汎関数理論(DFT)、動的モンテカルロ法(KMC)を駆使し、かつ、既存のシミュレーションにはない新しい手法を積極的に開発することを本課題の軸としている。研究開始から二年間で、BCA-KMCハイブリッド手法、自動構築KMCモデリング、MD用ポテンシャルのメタコンパイラと大きく三つの手法を開発した。 初年度H27年度にはBCA-KMCハイブリッド法の提唱と原理実証を行い、H28年度にはコードを完成させ応用を行った。プラズマ照射中の材料中の不純物(プラズマ粒子)蓄積量は一般に入射フラックスや材料中の拡散速度に依存する。しかし、従来のMDマイクロ秒程度の照射時間の照射しか扱えず、定量的な評価を行うことができなかった。本ハイブリッド手法では、BCAおよびKMCの高速性を生かすことで最大30秒の照射時間に相当する計算が可能になった。これにより不純物蓄積量のフラックス依存性・拡散係数依存性・照射時間依存性に関する定量的な評価が初めて可能になった。 次に、一般的なKMCでは母材金属の変形は扱うことができない。プラズマ照射に伴って母材金属の変形が起こった場合には不純物原子の拡散経路や移動障壁エネルギーが変わりKMCモデルが破たんしてしまう。そこで、拡散経路や移動障壁エネルギーを局所的なMDで高速に探索して、任意の原子配置に対する不純物原子拡散のKMCモデルを自動構築する手法を新たに開発した。この手法によって、ヘリウムバブルの凝集による母材金属変形や粒界構造のKMCモデルが自動構築され、マルチハイブリッドコードへ繋がる手法である。 三番目のメタコンパイラに関しては後述する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のBCA-KMCを水素の動的リテンション問題にも応用したところ、入射フラックスと拡散係数の比を用いることで、照射時間と水素蓄積量の間にスケーリング則成り立つことを発見した。このスケーリング則は、現在の実験装置の低いフラックスの実験結果から将来的な核融合炉の高フラックス環境下の不純物蓄積量を外挿予測する強力なルーツになることが期待でき、当初の想定以上の成果である。 自動構築KMCモデリングに関しても、研究開始当初には発想できていなかった新しい手法である。KMCの為の拡散経路や移動障壁エネルギーに関してはDFTを用いて算出するのが一般的であるが、それでは空間サイズの大きい材料の構造は調べきれない。本手法ではMDを使うことで、切り出した局所空間にて拡散経路や移動障壁エネルギー探索することで高速な探索が可能となった。ヘリウムバブルによる母材変形だけでなく、アモルファスや粒界など様々な材料中の拡散現象へと適用が可能である。 また、MD用の相互作用ポテンシャルの開発に関して、想定以上の成果がメタコンパイラDAMAの提唱・開発である。メタコンパイラDAMAは、原子間相互作用を表現する関数数式をTEX様のテキスト形式で入力すれば、それを解析してMD用のコードを自動生成するものである。この際、数式の微分も自動的に行って原子に働く力や応力も計算できるコードになるため、そのままMDシミュレーションが可能となる。さらに関数内のパラメータの微分値も計算できるため、ポテンシャルモデル開発におけるパラメータの最適化が容易になる。本手法はMDの普及のネックになっているポテンシャルモデルのコード化の障害を取り除き、分野を問わず産学でのMD利用を促すことができると期待される。本手法は特許出願中である。 本研究にて開発した手法はプラズマ―物質相互作用だけでなく材料物質研究一般に応用可能で将来の展開が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題において開発すべき技術に関して、残りは各種金属と希ガスの相互作用を記述するMD用ポテンシャルモデルの開発と、BCA-MD-KMCマルチハイブリッド手法の開発である。 前者のポテンシャルモデルに関して、課題となるのは関数形の決定とパラメータの最適化の二点である。これまで関数形の変更にはコードの書き直しという大きな手間がかかっていたが、開発したメタコンパイラを用いることでコードが自動生成でき、関数形の変更を伴う試行錯誤が容易に行えるようになった。パラメータの最適化に関してはDFTによって大量に作った訓練データを利用した機械学習の一種であるDownfolding法を用いる。H29年度中には第五・第六周期の遷移金属と希ガスに対する相互作用ポテンシャルモデルのプロトタイプの開発を完了する予定である。モデルが完成すれば、これまでに開発したMD-MCハイブリッド法や自動KMC構築法がタングステン以外の金属材料においても使えるようになり、各種金属間のナノ構造形成の比較が現実的になる。 後者のマルチハイブリッド手法に関しては、ヘリウムバブル形成による母材金属変形を高速に解くMD-MC法、プラズマ照射と不純物拡散を高速に解くBCA-KMC法、さらに変形した金属格子間の不純物拡散経路を高速にモデル化する自動構築KMCをこれまでに開発してきた。H29年度中に、これらを組み合わせたBCA-MD-KMCマルチハイブリッド手法の理論的な整備とプロトタイプコードの開発を行う。コード完成後からH30年度にかけて、BCA-MD-KMCマルチハイブリッド手法を用いてまずはタングステン―ヘリウム系に関するナノ構造形成を扱い、今までできなかった初期過程以後の成長過程の再現を目指す。その後、前述のポテンシャルモデルを取り入れることで、タングステン以外の金属に関する表面ナノ構造形成を取り扱う。
|