哺乳類の成体脳においても神経幹細胞が存在し、側脳室周囲の脳室下帯や海馬の歯状回といった特定の領域では、ニューロンの新生が一生涯続いている事が解ってきた。成体脳において新たに産出される多くの新生ニューロンは既存の神経回路に組み込まれるが、それらの組み込み様式・規模については不明な点が多く、また、ニューロン新生が個体にとってどのような生理的意義を持っているのかはほとんど明らかになっていなかった。マウス嗅球では、一日当たり数千個の新生ニューロンが神経回路に組み込まれている。そのため、マウス嗅球はニューロン新生が神経回路の可塑性に与える影響を解析するのに優れたモデル系である。 マウス生後脳・成体脳で起きているニューロン新生の機能的意義を、神経回路レベルで明らかにするために、二光子顕微鏡を用いた覚醒マウスのカルシウムイメージング法により、嗅球のニューロン新生を解析した。新生ニューロンを除去したマウスを用いて、嗅球の主要な出力ニューロンであるMitral cell(僧帽細胞)の可塑的変化について解析を行った。ニューロン新生除去マウスで障害が見られている、匂いと報酬の関連学習課題遂行時における、Mitral cell集団の神経活動パターンの推移を、野生型マウスとニューロン新生除去マウスで比較すことで、新生ニューロンがどのように嗅球神経回路の可塑性に貢献しているか明らかにした。これらの研究成果は、哺乳類脳神経系の可塑的性質の更なる理解と、再生医療実現のための基盤的知識の充実に繋がることが期待される。
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