H29年度は、フォトーム解析のための独自の高分解能多波長光照射装置を完成させ、その性能評価を行った。紫外から遠赤色光までの光を、均一な光量子密度で、極めて高い波長分解能で、多数の試料に照射する性能を確認した。本装置が必要とする試料量はわずか数百マイクロリットルであり、大量調整が困難な試料も解析できる。光照射部に温度およびガス濃度調節チャンバーを設置し、多様な細胞の培養も可能である。本装置の特許について国内出願およびPCT出願を完了した。現在、装置のライセンス販売について国内の光学機器メーカーとの交渉を進めている。 続いて、多検体のRNA-Seq解析による全遺伝子発現の定量と、それらの波長依存パターンのクラスター解析を全自動で行うパイプラインを構築した。このパイプラインを利用し、光合成生物のモデルとしてシアノバクテリア、非光合成生物のモデルとして大腸菌を選択し、これらの細胞を対象にフォトーム解析を実施した。シアノバクテリアから、紫外から遠赤色光までの幅広い光によって波長依存的に発現制御を受ける遺伝子の同定に成功した。一方で、大腸菌では、波長依存的な発現制御を受ける遺伝子はシアノバクテリアと比べて少数であった。この結果は、多様な光環境で生息する光合成生物が多様な光受容体を進化させてきたことを強く示唆している。また、今回のようにゲノムサイズが小さな生物を解析の対象としても、低発現遺伝子の高精度な波長依存パターンを取得するためには、リボソームRNAを除去してメッセンジャーRNAを濃縮する工程が必要であった。 前述の装置の特許出願のため、これらのフォトーム解析の研究成果は発表を控える必要があった。今後は、得られた研究成果を学会や論文として積極的に発表していく予定である。
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