研究課題
インスリンで刺激したラット肝がん由来Fao細胞から得たトランスクリプトームおよびメタボローム、シグナル分子のリン酸化(Western blot)の時系列データを用いて多階層代謝制御ネットワークを再構築する新規トランスオミクス解析手法を開発した(†Kawata, †Hatano, †Yugi et al. 2018 iScience)。さらにリン酸化に関して、Western blotを網羅性で上回るリン酸化プロテオームによるシグナル伝達ネットワーク再構築方法を開発した(†Kawata, †Hatano, †Yugi et al. 2018 Genes Cells)。これらを組み合わせることにより、リン酸化プロテオーム、トランスクリプトーム、メタボロームの3つのオミクス階層にまたがる多階層代謝制御ネットワークを再構築する技術基盤に一定の目処が立った。これをインスリン作用機構に応用した結果、これまで再構築に成功していた遺伝子発現を介さない「速い」インスリン作用のネットワークに加えて、遺伝子発現を介する「遅い」インスリン作用の分子基盤が明らかとなった。この他、代謝物質が一方的に制御を受ける存在ではなくアロステリック制御などを介してセントラルドグマ非依存的な「速い」制御を担うことを論じた総説を発表した(Yugi and Kuroda 2018 Curr. Opin. Syst. Biol.)。また、2017年末に論文発表した、リン酸化プロテオーム、炭素13標識メタボロームの2階層を統合して脂肪細胞における「代謝プライミング」を発見した成果(†Krycer, †Yugi et al. 2017 Cell Rep.)について、国際システム生物学会(於 フランス・リヨン)にて口頭発表した。
3: やや遅れている
マウス肝臓サンプルのエネルギー状態を示すAMP、ATPの量をサンプルの品質の目安として評価を進めていたところ、ATPの死後分解によると思われるAMP量増加を示すAMPKリン酸化が確認された。結果、このときのサンプル採取条件では、肝臓サンプル内で一部の代謝物質が死後分解によって失われていることが判明した。
マウス肝臓サンプル採取条件を変更し、麻酔を用いて心拍動下で肝臓を摘出し、速やかに液体窒素で凍結する条件にたどり着いた。これにより、代謝物質の死後分解を抑制して肝臓サンプルの品質を担保できるようになったので、オミクス計測に必要なサンプルの採取を進める。さらに、品質管理基準をパスしたサンプルについてメタボローム測定およびプロテオーム測定を実施する。取得した当該オミクスデータを用いて多階層代謝制御ネットワークを再構築し、既知の疾患遺伝子との一致・相違を評価することで多因子代謝疾患のメカニズムをネットワークとして理解することを目指す。
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Genes to Cells
巻: 24 ページ: 82-93
10.1111/gtc.12655
iScience
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doi: 10.1016/j.isci.2018.07.022
Current Opinion in Systems Biology
巻: 8 ページ: 59~66
https://doi.org/10.1016/j.coisb.2017.12.002
遺伝子医学Mook
巻: 33 ページ: 127-136