研究課題
植物や藻類で行われる酸素発生型光合成反応で働く光化学系II蛋白質(PSII)は光エネルギーを使って水を酸化分解して化学エネルギーの生産に必要な電子源を作り出している。本研究では好熱性シアノバクテリアThermosynechoccous vulcanus(TV細胞) 由来のPSIIを精製・結晶化を行い、結晶母液の水素イオン濃度(pH)を変えることで起こるアミノ酸残基の構造変化や水分子の位置の違いからPSIIの機能部位における最適な構造について検証し、PSIIのpHに依存した機構の解明を研究の目的としている。また、PSIIの5段階の水分解反応における反応サイクルでは2段階目(S2)まではpHに依存せずに進むことが知られており、本研究ではPSII結晶のpHを操作することでS2状態にトラップした構造の解明ももう一つの目標としている。初年度はPSII結晶を調製するために用いるTV細胞を40-60Lで大量培養し、結晶化に適した純度に精製する作業の検討を主に行った。しかし、所属機関の異動に伴う環境変化により培養細胞に問題が起こり、大量培養が困難な状況となった。そのため、本期間では培養条件の再検討を行ったことにより研究計画に若干の遅延が生じた。しかし、培養株の検討や培養条件の見直しにより状態の良好な細胞に戻して育成することに成功した。大量培養に成功したTV細胞からPSII試料を精製し、1mm長のPSII結晶が得られた。その結果、培養および精製方法は確立し、良好な結晶が得られる結晶化条件も見出すことができた。また、結晶の抗凍結処理に用いるポリエチレングリコール(PEG)を異なる種類のPEGに置き換える事で、放射光施設SPring8にて1.9Å分解能の回折能を有する良好な凍結PSII結晶を再現良く調製することも確立することができた。
3: やや遅れている
研究当初、異動の初年度であるため研究環境の変化によってPSII試料を抽出するシアノバクテリア細胞の培養が難航した。そのため、結晶化に適した量のPSII試料を得ることができなかった。しかし、培養条件および精製条件を再検討することで、再現良く良好な結晶を得る条件を確立する事ができた。
PSII試料を安定に供給することができる培養および精製条件が確立し、PSII結晶についても再現良く作製することができるようになった。今後、研究目的のpH変化によるPSIIへの影響を調べるため、PSII結晶が浸かっている母液の緩衝液の種類およびpHを検討し、PSII結晶のpHに対する許容範囲について検討する。また、温度や塩などの副次的な要因についても考慮にいれて研究を進める。もう一つの研究目的であるS2反応中間状態については、励起光源の検討と結晶試料の励起方法について検討を行う。PSIIは色素分子クロロフィルが大量に含まれるため、効率良く励起させる光源および試料の状態について検討し、中間状態に移行したことをX線吸収スペクトル法等を用いて確認し、励起方法を見出すことを目指す。
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