研究課題
光化学系II蛋白質(PSII)は光合成における水分解・酸素発生を5段階の反応サイクルにより行っている酵素である。PSIIの反応はpH6を頂点としてpHに応じて活性が低下するが、次段階のS2反応中間状態まではpHに依存しないことが報告されている。本研究では、pHによる活性低下の要因を結晶構造から解明すると共に、S2状態をトラップした構造の解明を目的とする。今期間の研究から、PSII結晶を3種混合緩衝液を使うことで、結晶を劣化させずに結晶内のpHを徐々に可変することに成功した。酸性側では、マロン酸、イミダゾール、ホウ酸を混合した緩衝液を使い、塩基性側ではマロン酸、イミダゾール、グッド緩衝液CHESを混合した緩衝液を用いた。その結果、pH4.3からpH9.0の範囲で、異なるpH条件の複数のPSII結晶を調製し、それぞれ2.0Å分解能前後で結晶構造解析に成功した。構造を精査したところ、pH可変に伴う大きな構造変化は少なかったが、水分解から発生する電子をプロトン移動と連動して行う活性チロシン残基(Yz)と連なるヒスチジン残基およびアスパラギン残基の距離が大きく伸びていた。また、電子受容部位の非ヘム鉄に配位した重炭酸イオンも本来の二配位結合から一配位結合に大きく変化しており、電子受容部位にも影響が起きていることが確認された。これらの構造変化から、電子供給および電子受容の重要な部位に構造変化が生じることで、水分解反応に伴う電子伝達が阻害される仕組みが解明された。一方、S2状態の固定には上記のpH変化だけでは不十分であった。過去の報告から100Kから200Kの温度に上げるとS2状態で固定されることが知られていた。そこで、結晶を粘性溶液のフィルムで保護することで、この温度でも十分な回折実験が行えることがわかった。また光照射した結晶のX線吸収スペクトルからもS2状態であることが確認された。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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