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2017 年度 実績報告書

アシルセラミドによる皮膚バリア形成の分子メカニズムと病態解明

研究課題

研究課題/領域番号 15H05589
研究機関北海道大学

研究代表者

大野 祐介  北海道大学, 薬学研究院, 助教 (50611498)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2019-03-31
キーワードセラミド / アシルセラミド / 皮膚 / 魚鱗癬 / スフィンゴ脂質
研究実績の概要

皮膚は体内の水分の損失の防止や外来微生物および化学物質の侵入防止の透過性バリアとして作用する。このバリアの本体は脂質であり,その中でも特には表皮特異的に存在するアシルセラミドは,皮膚のバリア形成に必須である。アシルセラミドは,1980年代に構造決定がなされたが,その合成経路は不明であった。前年度までに,アシルセラミドが,脂肪酸伸長酵素ELOVL4による脂肪酸の伸長(超長鎖脂肪酸の合成),脂肪酸ω水酸化酵素CYP4F22による超長鎖脂肪酸のω水酸化,セラミド合成酵素CERS3によるω水酸化超長鎖脂肪酸アシルCoAと長鎖塩基の縮合(ω水酸化セラミドの合成),PNPLA1によるω水酸化セラミドへのリノール酸の付加反応を経て合成されることを明らかにした。
当該年度は,魚鱗癬症候群であるChanarin-Dorfman症候群の原因遺伝子産物ABHD5がPNPLA1によるアシルセラミド合成を促進することを見出した。ABHD5の魚鱗癬変異体(S115G, Q130P, H251PおよびE260K)ではアシルセラミド合成促進効果は見られなかったことからABHD5遺伝子変異による魚鱗癬発症要因はPNPLA1の活性化不全によりアシルセラミド合成が低下することが原因であることが強く示唆された。また前年度に作製が成功していたIchthyinノックアウトマウスが新生致死になることの要因として,アシルセラミド合成が低下することに加え,角質層の周辺帯の形成が異常になるためであることを明らかにした。その分子メカニズムとして,Ichthyinがケラチノサイトの分化依存的な細胞内Mg2+濃度上昇に関与すること,Ichthyinの欠損によりMg2+ 濃度上昇が抑制されることでヘテロクロマチン構造が発達し,周辺帯形成関連遺伝子の発現が抑制された結果,角質層周辺帯の形成が異常になることであることを見出した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ABHD5はアシルセラミド合成に関与することが示唆されていたが,アシルセラミド合成のどの段階に関与するかは明らかになっていなかった。2016年度においてアシルセラミド合成の最終反応であるリノール酸を付加する酵素PNPLA1を同定することに成功したが,PNPLA1の属するPNPLAファミリーのうちトリグリセリドリパーゼPNPLA2/ATGLの活性化因子としてABHD5は知られていた。しかし,ABHD5が魚鱗癬原因遺伝子である一方で,PNPLA2遺伝子変異は魚鱗癬などの皮膚疾患発症には関与していない。このことから代表者は,ABHD5がPNPLA2の活性化以外の機能,つまりPNPLA1によるアシルセラミド合成の活性化にも関与していると考え解析を行ったところ,ABHD5はPNPLA1依存的なアシルセラミド合成を促進することを見出した。
機能未知の魚鱗癬原因遺伝子Ichthyin KOマウスに関しても,皮膚バリア形成不全が引き起こされる分子メカニズムとしてアシルセラミド合成が低下することに加え,角質層の周辺帯の形成関連遺伝子の発現が低下するためであることを見出した
これらのことから2種の魚鱗癬原因遺伝子による魚鱗癬発症メカニズムを明らかにすることに成功しており,当初の計画通りに研究が進行しているといえる。

今後の研究の推進方策

2017年度までの解析により研究代表者は,アシルセラミドが1) ELOVL1とELOVL4による長鎖脂肪酸アシルCoAから超長鎖アシルCoAへの伸長,2) CoAの脱離,3) ω水酸化,4) CoA付加,5) 長鎖塩基との縮合,6) リノール酸の付加の順に反応を経ることで合成されることを明らかにし,さらには反応3), 反応6) を担う酵素を同定した。しかし,反応2)と反応4)に関与する酵素の同定には至っていない。最終年度にはこれらの反応を担う酵素の同定を目指しさらなる解析を行う。反応2)に関与する酵素としてチオエステラーゼファミリーを,反応4)に関与する酵素としてアシルCoA合成酵素ファミリーに着目し,特にアシルCoA合成酵素では,魚鱗癬未熟児症候群であるACSVL4遺伝子の着目し,解析を行う。現在既にAcsvl4 KOマウスを作製が完了しており,既報の通り,Acsvl4 KOマウスは皮膚バリア形成不全により新生致死となることを確認している。そこで,本年度はAcsvl4 KOマウスのアシルセラミドをはじめとする脂質解析,遺伝子発現解析を行うことでAcsvl4のアシルセラミド合成への関与および魚鱗癬未熟児症候群発症メカニズムの解析を行う。
また,魚鱗癬やアトピー性皮膚炎などのアシルセラミド合成異常が関与する皮膚疾患の病態改善を目的として,各種転写活性化因子(RXR, RAR, PPARs, LXR, ビタミンD受容体など)を刺激し,アシルセラミド合成を活性化させる薬剤の探索も行う。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Decreased Skin Barrier Lipid Acylceramide and Differentiation-Dependent Gene Expression in Ichthyosis Gene Nipal4 -Knockout Mice2018

    • 著者名/発表者名
      Honda Yuichi、Kitamura Takuya、Naganuma Tatsuro、Abe Takaya、Ohno Yusuke、Sassa Takayuki、Kihara Akio
    • 雑誌名

      Journal of Investigative Dermatolgy

      巻: 138 ページ: 741~749

    • DOI

      10.1016/j.jid.2017.11.008

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Biallelic Mutations in KDSR Disrupt Ceramide Synthesis and Result in a?Spectrum of Keratinization Disorders Associated with Thrombocytopenia2017

    • 著者名/発表者名
      Takeichi Takuya、Torrelo Antonio、Lee John Y.W.、Ohno Yusuke、et al.
    • 雑誌名

      Journal of Investigative Dermatolgy

      巻: 137 ページ: 2344~2353

    • DOI

      10.1016/j.jid.2017.06.028

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] 皮膚バリア脂質アシルセラミド合成におけるトランスアシラーゼPNPLA1 の同定と ABHD5 の関与2017

    • 著者名/発表者名
      大野祐介, 中路翔太, 神山望, 木原章雄
    • 学会等名
      第59回日本脂質生化学会
  • [学会発表] 多価不飽和脂肪酸含有スフィンゴ脂質の組織分布及び生合成経路の解明2017

    • 著者名/発表者名
      枝川茉生, 澤井恵, 大野祐介, 木原章雄
    • 学会等名
      日本生化学会北海道支部第54回支部例会
  • [学会発表] 魚鱗癬原因遺伝子NIPAL4の欠損によるアシルセラミド産生低下と皮膚バリア機能異常.2017

    • 著者名/発表者名
      本多湧一, 北村拓也, 永沼達郎, 大野祐介, 佐々貴之, 木原章雄
    • 学会等名
      第16回次世代を担うファーマ・バイオフォーラム
  • [学会発表] C24:2多価不飽和スフィンゴ脂質の組織分布及び生合成経路の解明2017

    • 著者名/発表者名
      枝川茉生, 澤井恵, 大野祐介, 木原章雄
    • 学会等名
      第10回セラミド研究会学術集会
  • [学会発表] 魚鱗癬原因遺伝子Nipal4ノックアウトマウスにおける皮膚バリア脂質アシルセラミドの減少2017

    • 著者名/発表者名
      本多湧一, 北村拓也, 永沼達郎, 大野祐介, 佐々貴之, 木原章雄
    • 学会等名
      2017年度生命科学系学会合同年次大会
  • [学会発表] ABHD5 stimulates acylceramide synthesis by recruiting PNPLA1 to lipid droplets2017

    • 著者名/発表者名
      Yusuke Ohno, Akio Kihara
    • 学会等名
      Gordon Research Conferences
    • 国際学会
  • [備考] 北海道大学大学院薬学研究院生化学研究室ホームページ

    • URL

      http://www.pharm.hokudai.ac.jp/seika/index.html

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公開日: 2018-12-17  

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