研究実績の概要 |
皮膚は体内の水分の損失の防止や外来微生物および化学物質の侵入防止の透過性バリアとして作用する。このバリアの本体は脂質であり,その中でも特には表皮特異的に存在するアシルセラミドは,皮膚のバリア形成に必須である。アシルセラミドは,1980年代に構造決定がなされたが,その合成経路は不明であった。前年度までに,アシルセラミドが,脂肪酸伸長酵素ELOVL4による脂肪酸の伸長(超長鎖脂肪酸の合成),脂肪酸ω水酸化酵素CYP4F22による超長鎖脂肪酸のω水酸化,セラミド合成酵素CERS3によるω水酸化超長鎖脂肪酸アシルCoAと長鎖塩基の縮合(ω水酸化セラミドの合成),PNPLA1によるω水酸化セラミドへのリノール酸の付加反応を経て合成されることを明らかにした。 当該年度は,魚鱗癬症候群であるChanarin-Dorfman症候群の原因遺伝子産物ABHD5がPNPLA1によるアシルセラミド合成を促進することを見出した。ABHD5の魚鱗癬変異体(S115G, Q130P, H251PおよびE260K)ではアシルセラミド合成促進効果は見られなかったことからABHD5遺伝子変異による魚鱗癬発症要因はPNPLA1の活性化不全によりアシルセラミド合成が低下することが原因であることが強く示唆された。また前年度に作製が成功していたIchthyinノックアウトマウスが新生致死になることの要因として,アシルセラミド合成が低下することに加え,角質層の周辺帯の形成が異常になるためであることを明らかにした。その分子メカニズムとして,Ichthyinがケラチノサイトの分化依存的な細胞内Mg2+濃度上昇に関与すること,Ichthyinの欠損によりMg2+ 濃度上昇が抑制されることでヘテロクロマチン構造が発達し,周辺帯形成関連遺伝子の発現が抑制された結果,角質層周辺帯の形成が異常になることであることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度までの解析により研究代表者は,アシルセラミドが1) ELOVL1とELOVL4による長鎖脂肪酸アシルCoAから超長鎖アシルCoAへの伸長,2) CoAの脱離,3) ω水酸化,4) CoA付加,5) 長鎖塩基との縮合,6) リノール酸の付加の順に反応を経ることで合成されることを明らかにし,さらには反応3), 反応6) を担う酵素を同定した。しかし,反応2)と反応4)に関与する酵素の同定には至っていない。最終年度にはこれらの反応を担う酵素の同定を目指しさらなる解析を行う。反応2)に関与する酵素としてチオエステラーゼファミリーを,反応4)に関与する酵素としてアシルCoA合成酵素ファミリーに着目し,特にアシルCoA合成酵素では,魚鱗癬未熟児症候群であるACSVL4遺伝子の着目し,解析を行う。現在既にAcsvl4 KOマウスを作製が完了しており,既報の通り,Acsvl4 KOマウスは皮膚バリア形成不全により新生致死となることを確認している。そこで,本年度はAcsvl4 KOマウスのアシルセラミドをはじめとする脂質解析,遺伝子発現解析を行うことでAcsvl4のアシルセラミド合成への関与および魚鱗癬未熟児症候群発症メカニズムの解析を行う。 また,魚鱗癬やアトピー性皮膚炎などのアシルセラミド合成異常が関与する皮膚疾患の病態改善を目的として,各種転写活性化因子(RXR, RAR, PPARs, LXR, ビタミンD受容体など)を刺激し,アシルセラミド合成を活性化させる薬剤の探索も行う。
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