研究課題/領域番号 |
15H05592
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
古賀 信康 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 准教授 (50432571)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | タンパク質分子デザイン / 分子モーター / F1-ATPase / 改造 / 構造変化 / シーソーモチーフ / 計算機デザイン / 生化学実験 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、計算機と生化学実験、両方の手段を用いて合理的にATPをエネルギー源として駆動する回転モータータンパク質F1-ATPaseを改造することにより、その動作原理を明らかにすることを目的とする。F1-ATPaseはαおよびβサブユニットが交互に3つずつ並んだ6量体のリング構造を形成し、リング中心を回転子であるγサブユニットが貫いている。3つのβサブユニットが協同しながら順番にATPと結合・加水分解を行うことにより、自身の構造を大きく変化させ、γサブユニットを回転させている。αおよびβサブユニットはお互いに非常に良く似た構造をしているにも関わらず、それらの機能は異なる。βサブユニットは、ATPを結合・加水分解することで構造変化を起こすことができるのに対して、αサブユニットはATPに結合するのみである。そこで当該年度は、βサブユニットの構造変化能の仕組みを明らかにすることを目的として、1)βサブユニットのATP結合における構造変化能を無くす、2)αサブユニットにATP結合における構造変化能を付与する、ように計算機で合理的に改造することに取り組んだ。まず、αおよびβサブユニットの結晶構造を比較することにより、構造変化に重要であると推測される構造部位「シーソーモチーフ」を特定した。そして、この発見を基に、計算機を用いて、1) βサブユニットからのシーソーモチーフの除去、2) αサブユニットへのシーソーモチーフの構築、を行うことにより改造を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ATP結合に伴って構造変化を起こすβサブユニットと、ATPを結合するが構造変化能を有しないαサブユニットの結晶構造を比較することにより、構造変化に重要であると思われるシーソーモチーフを発見した。そして、それに基づいて、タンパク質分子デザインソフトウェアRosettaを用いて、計算機上で合理的に、βサブユニットからシーソーモチーフを除去、αサブユニットに新たにシーソーモチーフを構築することにより、F1-ATPaseの改造を行った。全体としては研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
改造したF1-ATPaseを発現・精製し生化学実験を行うことで、構造安定性(折りたたみ能や複合体形成能)および機能(ATP加水分解能および構造変化能)の検証を行う。特に、計算機上で行ったβサブユニット、αサブユニット、両方の構造変化能の改造が、実際に実現されているかどうかを検証する。具体的には、まず、βサブユニットからシーソーモチーフを除去することによりβサブユニットの構造変化能が消失したかどうかを、6量体リング構造とγサブユニットとの複合体形成能等を調べることにより確認する。βサブユニットが構造変化能を失い常にClose構造をとるように改造されていた場合には、γサブユニットが居場所を失いリングから追い出されると予想される。次に、αサブユニットに新たにシーソーモチーフを構築することによりαサブユニットに構造変化能が付与したかどうかを、同様の方法を用いて確認する。αサブユニットが構造変化するように改造されていた場合には、再びγサブユニットがリングの中に入り複合体を形成することが期待される。複合体形成能により間接的に構造変化能を検証した後には、結晶構造解析等を行うことにより更なる検証を行う。これらの実験結果を解析し、またそれに基づいてさらなる改造を行うことにより、F1-ATPaseがどのように構造変化して機能するのかを明らかにする。構造変化能の改造に成功した後には、ATP加水分解能の改造を行い、ATP加水分解、構造変化がどのようにカップルしてF1-ATPaseを回転させているのか、その動作原理の解明を目指す。
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