本研究課題では、細胞性粘菌のcAMPに対する走化性シグナル伝達機構をモデルとして、分子生物学的手法とオプトジェネティクスを用いた生物物理学的手法により、真核生物の走化性シグナル伝達における膜電位の重要性を明らかにするとともに、シグナル伝達機構に働く膜電位変化の役割を分子レベルで解明することを目指している。これまでの研究結果から、細胞性粘菌の集合期における周期的なcAMPシグナル伝達に追従したリズミックな膜電位変化が自発的に発生していることを、本研究課題で確立した高感度な蛍光イメージング手法によって明らかにしている。また、走化性シグナル伝達におけるcAMPリレーと膜電位変化の関係性を明らかにするために、膜電位と他の様々なシグナルとの同時タイムラプス計測を高感度で行なうための実験系を確立し、cAMP、カルシウムイオン、pHなどのシグナルをこれまでに無い高い感度でイメージングすることが可能となっている。さらに、オプトジェネティクスの技術を取り入れ、細胞性粘菌において高効率な手法を確立することにより、各シグナルの光操作ができるようになっている。本年度の研究では、膜電位の光操作と同時に細胞内cAMP濃度のモニタリングを可能とする実験系の確立に成功した。この実験系を用いた計測により、さまざまなイオンの流れによって引き起こされる膜電位変化が、cAMPシグナルリレーを直接的に調節していることが強く示唆された。本研究で確立したイメージングや光操作技術は、細胞性粘菌の研究だけではなく、原核生物から真核生物に至るまでの幅広い研究に応用できるものであると考えている。
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