研究実績の概要 |
これまでに、多量体から構成されるイオンチャネルがいくつか報告されている。例えば、NaK, MscL, MscSチャネルは、それぞれ4, 5, 6量体から構成され、いずれも外部刺激に応答して膜貫通ヘリックスが傾くことで、チャネルの開閉を実現している。これらのイオンチャネルは、アミノ酸配列の相同性が無いにもかかわらず、同様の構造変化を起こすという共通性があるため、多量体構造そのものに機能発現に関する基本原理があると考えられる。本研究では、多量体型イオンチャネルの構造変化を、分子動力学シミュレーションにより解析し、イオンチャネル開閉のメカニズムを解明することを目指す。昨年度、全原子モデルを用いたイオンチャネルの拡張アンサンブルシミュレーションを行ったが、計算可能な時間スケールの範囲内で、大きな構造変化を観察することができなかった。そこで、本年度は構造変化をより強く誘起させるために、陰的溶媒モデルを用いたシミュレーションを実施した。本研究室で開発している分子動力学シミュレーションソフトウェア GENESIS に implicit membrane model を導入し、拡張アンサンブル法と組み合わせた。4量体型イオンチャネルである NaK チャネル (Closed 状態) の計算を行ったところ、ポアを形成しているヘリックス4本が同時ではなく、順々に傾きOpen 状態に近づく様子が観察され、これまで考えられてきた機構とは異なる、しかしながら合理的な構造変化をすることが示唆された。今後、最適なパラメーターやモデルの精密化を検討し、全原子モデルを用いた計算と連成させる。
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