研究課題
本研究では,ミトコンドリア・小胞体間のリン脂質輸送メカニズムやリン脂質合成制御メカニズムを明らかにすることを目指している。平成28年度では,研究代表者が独自に開発した試験管内リン脂質輸送実験系を用いたミトコンドリア・小胞体間のリン脂質輸送メカニズムの解析を行い,ミトコンドリア・小胞体間テザリング因子複合体であるERMES複合体が,小胞体からミトコンドリアへのホスファチジルセリン輸送を促進するが,ミトコンドリアから小胞体へのホスファチジルエタノールアミン輸送には関与しないことを新たに発見し,論文として報告した(Kojima et al., Sci. Rep. 2016)。またこの試験管内リン脂質輸送実験系を用いたスクリーニングにより,ホスファチジン酸脱リン酸化酵素Pah1が欠損した膜画分では,ほとんどリン脂質合成が起こらないことを発見した。ウェスタンブロッティングにより,Pah1が欠損すると,リン脂質合成酵素群の発現量が顕著に減少することを明らかにした。現在Pah1による,リン脂質合成酵素群の発現調節機構に興味を持って解析を進めている。またERMES複合体を欠損細胞の増殖阻害を回復させるマルチコピーサプレッサーを多数単離し,脂肪酸の飽和度がリン脂質輸送に重要である可能性を示し,同様に論文として報告した(Kojima et al., FEBS lett. 2016)。さらにERMES複合体の数が,ミトコンドリアの融合と分裂によって制御されることを示唆する結果を得ていたため,さらに解析を進めた。具体的にはミトコンドリア分裂阻害剤を添加し,ミトコンドリア分裂を阻害させると,一細胞あたりのERMES数が減少することがわかった。現在,ERMES複合体クラスター同士が融合するかを,ライブセルイメージングにより検討している。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究では,ミトコンドリア・小胞体テザリング因子であるERMES複合体の,オルガネラ間リン脂質輸送における役割を明らかにすることに成功し,論文として発表することが出来た。この成果は,研究代表者が独自に開発した試験管内リン脂質輸送実験系を駆使した独創性の高いものである。また本研究の大きな目的の一つである,ミトコンドリア・小胞体間のリン脂質輸送メカニズムの解明に,大きく貢献するものである。さらにこの試験管内実験系を駆使し,リン脂質の合成に関与する新たな遺伝子の同定にも成功している。また,ERMES複合体とオーバーラップする機能を持つと予想される,ERMES複合体欠損株の増殖を回復させるマルチコピーサプレッサーの単離と機能解析を行い,リン脂質輸送と,リン脂質の飽和度の関連性を明らかにし,論文として報告することが出来た。 その他にも,ERMES複合体のクラスタリング機構について多くのデータを取得し,論文をまとめているところである。以上のことから,本研究は計画通り順調に進行しているといえる。また今後も大きな進展が期待されると考えている。
平成28年度に行った研究の中で,スフィンゴ脂質合成に関与すると考えられる新規因子を見出した。さらにスフィンゴ脂質代謝がミトコンドリアの機能維持に重要である事を示唆する結果を得ている。そこで今後はリン脂質だけでなくスフィンゴ脂質とミトコンドリア機能の関係や,スフィンゴ脂質とリン脂質の関わりに関して研究を進めていく。またホスファチジン酸脱リン酸化酵素Pah1が欠損すると,リン脂質合成酵素群の発現量が顕著に低下する事を見出している。過去の報告によると,ホスファチジン酸(PA)の量が増加すると,PAに結合する転写抑制因子Opi1が核内に移行できなくなり,転写が活性化するはずである。Pah1が欠損してPAが蓄積するにも関わらず,リン脂質合成酵素群の発現量が低下するメカニズムは興味深い。今年度は未だ謎の多いリン脂質合成酵素の発現調整メカニズムの解明にも取り組む。さらにこれまでの研究により,ERMES複合体の不必要なクラスタリングが,ミトコンドリアの分裂によって抑制されているという仮説を立てている。この仮説を検証するために,異なる蛍光タンパク質で標識したERMES複合体構成因子を発現する,接合型の異なる酵母細胞を用意し,接合させた状態でライブセルイメージングを行う。この際に既存のERMES複合体クラスターが同士が融合し得るかを検証する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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https://www.tamuralab.com