研究課題/領域番号 |
15H05597
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
近藤 武史 京都大学, 生命科学研究科, 特定助教 (60565084)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 発生生物学 / 上皮形態形成 / 陥入 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
本研究では形態形成の駆動とは独立したtrh遺伝子機能に依存する管状上皮構造維持のメカニズムの解明を目的としている。これまでに管状形状安定化に関わる候補因子としてRhoGAPを同定した。当該年度にはRho1 GTPaseの活性制御と管構造維持メカニズムの関連を明らかにするために以下の解析を実施した。ドミナントネガティブ型のRho1をtrh変異体で過剰発現したところ、RhoGAPの過剰発現と同様の表現型を示した。つまりRhoGAPはRho1の活性低下を介して管構造維持に関与していることが考えられた。一方で恒常活性化型Rho1の過剰発現によっても管構造が維持されることも明らかとなった。つまり、人為的なRho1の活性化と活性低下の両方が管構造維持を引き起こすことができると考えられた。正常胚の気管でどちらが作用しているかを検討するために、Rho1 GTPase活性レポーターを用いて表皮細胞、気管細胞における細胞内活性化状態を解析した。表皮細胞や陥入前の気管原基細胞では頂端面での活性化が認められたが、それと比較すると陥入後の気管細胞では頂端面での局所的活性化パターンは観察されなかった。また、Rho1 GTPaseはその下流で非筋ミオシンIIの活性制御を介して細胞形態の制御に関わることが知られており、一般的には陥入する上皮細胞の頂端面では強い非筋ミオシンII活性が認められることが多い。そこで非筋ミオシンIIの細胞内局在についても解析を行ったところ、Rho1 GTPaseの活性化パターンと同様に、陥入後の気管細胞では頂端側への局在パターンは観察されなかった。これらの結果から、正常胚においては気管細胞でのRho1活性の低下が管構造維持に関与することが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのスクリーニングで同定した因子を起点として、気管細胞ではRho1活性とミオシン活性の低下が管構造維持に関与することを強く示唆する結果を得ることができ、シート状の表皮組織と管状の気管組織間の細胞生物学的差異を見出しつつある。一般的には陥入する上皮細胞の頂端面では強いRho1 GTPase活性と非筋ミオシンII活性が認められることが多いが、それとは異なるパターンであり、上皮形態形成機構の多様性を理解する上でも重要な知見と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに陥入後の気管細胞では頂端側のRho1 GTPase活性およびミオシンの局在が表皮細胞と比べて弱いことを示唆する結果を得た。今後はtrh変異体や不完全な陥入を示す変異体の気管細胞および表皮細胞に対して同様の解析を行い、管構造とRhoGAPの発現、Rho1活性化状態、ミオシン局在の関係性をさらに検証する。また、明らかになった細胞生物学的特徴を考慮に入れ新たな制御因子の同定を進める。さらに明らかになった特徴が気管特異的なものであるのか、管状上皮組織に広く適用可能なものであるのかを検証する。具体的には、気管と同様に胚発生過程に表皮から陥入することで形成される唾腺や気門について、上記と同様の細胞生物学的な解析を行い、気管と似た特徴が観察されるかどうかを検討する。
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