本研究では、形態形成の駆動とは独立したtrh遺伝子機能に依存する管状上皮構造維持のメカニズムの解明を目的としている。これまでに管状形状安定化に関わる候補因子としてRhoGAPを同定し、陥入した細胞ではRho1活性が減弱することを見出していた。当該年度にはRho1 GTPaseの活性制御と管構造維持メカニズムの関連を明らかにするために以下の解析を実施した。 まず一過的な陥入が見られるtrh変異体におけるRho1 GTPaseの活性パターンを詳細に解析したところ、陥入した細胞においてはコントロール胚と同様に活性が減弱していた。しかしながら、細胞が陥入構造からシート状の表皮に戻った場合には頂端面での活性が回復していた。このことから、trh変異体においても一過的な気管原基の陥入運動とRho1 GTPase活性の減弱に相関が認められ、Rho1 GTPase活性を低レベルに保つことが管構造維持に重要であることが示唆された。また、trh変異体におけるRho1 GTPase活性の一過的な減弱を制御するメカニズムを探索するために、RhoGAP Cv-cの発現パターンを解析した。Cv-cは陥入前の気管原基で発現を開始する。Trhの標的遺伝子として報告されいたが、trh変異体において陥入前の発現開始には変化が認めれられなかった。一方で、trh変異体で一過的に陥入した気管原基細胞においてはCv-cの発現が維持されず、減少することが明らかになった。つまり、trh変異体ではtrh非依存的なcv-cの発現誘導により気管原基の陥入構造への変換が保証されるが、その発現を維持できないために、陥入構造も保つことができなくなることが示唆された。ただし、cv-c変異体では気管構造は維持されるため、trhはcv-c以外にも複数の下流遺伝子の発現を制御することにより、冗長的に管構造を維持していると考えられる。
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