研究課題
植物は、光を受容する集光アンテナタンパク質の発現・解離・再結合により、様々な光合成超分子複合体を形成する。これにより、刻々と変化する周囲の光環境へと適宜適応している。特に、強光ストレスから光合成装置を守る強光適応(消光メカニズム:NPQ)の存在は、多くの植物研究者の知るところであるが、その分子基盤に関与する光合成超分子複合体の形成メカニズムは、未だ全容が分かっていない。本研究では、光合成生物のNPQに直接作用する集光アンテナの発現制御機構の解明と、それらのタンパク質が光合成反応中心へ結合したNPQ超分子複合体の形成メカニズムおよび動的な構造解明を目的とした。平成29年度の実績として、ステート遷移と呼ばれる光適応メカニズムにおいて集光アンテナタンパク質のリン酸化による消光作用機序を明らかにした。その実体は、光化学系同士が密接に相互作用することで発生する、直接的な励起エネルギー移動であった。現在この光適応メカニズムの作用機序を中心に、論文化を進めている。一方、光防御を駆動するタンパク質であるLHCSRの発現誘導メカニズムについても研究を進めており、LHCSRのうちLHCSR1と呼ばれるタンパク質が紫外線依存・光合成非依存的に発現誘導されることを見いだした。さらに、LHCSR1の生理機能を調べたところ、光化学系に直接結合して光防御を駆動するLHCSR3と異なり、集光アンテナタンパク質の励起エネルギーを特定の光化学系へと受け渡し、光化学反応依存的に消光を促進していることを見いだした。この発見は、従来の光防御メカニズムの概念を変える重要なインパクトを持つ事から、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に論文掲載されるに至った。
1: 当初の計画以上に進展している
異なる光防御メカニズムについて、同時進行で研究を遂行した。その結果、ステート遷移と呼ばれる光防御メカニズムは、従来の集光アンテナ移動モデルではなく、光化学系超複合体レベルでの直接的な相互作用により引き起こされることを見いだした。この発見は、ステート遷移の分子メカニズムの概念を覆すものであり、当該研究における成果として期待以上であった。一方、qEクエンチングと呼ばれる光防御メカニズムにおいては、LHCSR1タンパク質が重要な役割を持つことを見いだし、生化学・分光学的手法を用いてその分子基盤の解明を試みた。その結果、従来のqEクエンチングのモデルである『励起エネルギーを熱に変換して消去する』という作用機序ではなく『励起エネルギーを優先的に光化学系Iへと受け渡すことで光化学系IIの過剰励起を抑制する』という全く新しい作用機序を明らかにすることが出来た。この結果については、従来の光防御メカニズムの概念を変える重要なインパクトを持つ事から、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に論文掲載され、当該研究の成果としても当初の計画以上であると考えている。さらに現在は、LHCSR1が紫外線依存的に発現することに着目し、この発現誘導システムを利用し、LHCSR1をバイオマーカーとした大規模スクリーニング系の確立を進めている。当該研究期間内での研究完了は困難であることが予想されるが、今後の研究展開を考慮した際に必要不可欠な研究内容であるため鋭意研究を進めていく。
当該研究の最終年度であるため、これまでの研究内容の総括および科学論文として国際誌への投稿を進める。既にステート遷移と呼ばれる光適応メカニズムにおいて、集光アンテナタンパク質のリン酸化による消光作用機序を明らかにした。その実体は、光化学系同士が密接に相互作用することで発生する、直接的な励起エネルギー移動であった。本年度は、この光適応メカニズムの作用機序を中心に、論文化を進める予定である。また、2つの光化学系が直接的に相互作用している可能性が高いことから、該当する超-超分子複合体の精製を達成するため、新たな光化学系超分子複合体精製手法の確立を目指す。一方、LHCSRのうちLHCSR1と呼ばれるタンパク質が紫外線依存・光合成非依存的に発現誘導されることを見いだしたため、この発現誘導システムを利用し、LHCSR1をバイオマーカーとした大規模スクリーニング系の確立を進める予定である。当該研究期間内での研究完了は困難であることが予想されるが、今後の研究展開を考慮した際に必要不可欠な研究系であるため鋭意研究を進めていく。
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