期間の前半では,主に,前年度の中央水産研究所の漁業調査船蒼鷹丸による2度の調査航海(2016年11月および2017年3月)で得られた試料に基づいて研究を進めた。まず,船上でプロクロロコッカスを添加した粗培養カルチャーにおいて増殖した鞭毛虫類およびアメーバ類について,分子系統学的な解析を試みた。すなわち,プロクロロコッカスを定期的に添加し続けることで粗培養カルチャーの維持をしつつ,マイクロキャピラリーを用いて単離培養株の作成を順次おこない,そのうち合計12株について,18S rDNA塩基配列に基づいて分子系統解析をおこなったところ,それぞれ無色鞭毛虫4属とアメーバ1属に分類された。さらに,粗培養カルチャーのバルク懸濁粒子に対してDNAを抽出して18S rDNAの大腸菌クローンライブラリを作成して解析したところ,6属の無色プロティストが量的に重要な構成者であると認められたが,うち2属は単離培養が未成功の生物であると考えられた。なお,先行研究などから,少なくともうち5属はCPE代謝をおこなう生物であると考えられた。 次に,平成29年度の練習船勢水丸(三重大学;2017年5月)および漁業調査船蒼鷹丸(中央水産研究所;2017年11月および2018年3月)の調査航海においては,昨年度と同様な試料採取・船上実験をおこないつつ,タンジェンシャルフロー濾過法について試行錯誤をおこない,作業効率および濾過量について大幅に改良することに成功した。これにより,北緯27~30度東経138度の黒潮流軸以南の太平洋外洋の表層水から層別の懸濁物試料を採取し,今後の色素代謝物の定量解析およびメタゲノム解析から,プロクロロコッカスの分布と無色プロティストの分布の相関と色素代謝から見積もられる捕食速度を解明していく道筋を整えることができた。
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