研究実績の概要 |
本研究は、ヒト体臭発生機序の分子生理学的理解を通じ、体質や健康状態の違いに基づく「体臭の個人差」を決定する分子基盤の同定を目指す研究である。将来的なにおい診断の実現を視野に、学術的研究基盤の構築と手法論の確立を目指す。試金石である本研究では、体臭として腋臭に焦点を絞り、生活習慣病との関連に着目する解析にも取り組むことを計画している。本年度(平成28年度)は研究2年度目に当たり、主に以下の点に取り組みながら、研究成果の一部を論文発表した。 本研究では、腋臭症の表現型決定因子のひとつであるATP-binding cassette transporter sub-family C member 11 (ABCC11) に着目した研究を進めている。研究初年度(平成27年度)までの研究において、N-結合型糖鎖がABCC11のタンパク質安定性を制御することが見出されたことを受け、関連する分子機序を明らかにするための分子細胞生物学的実験を行った。その結果、ABCC11の細胞内機能がグルコース利用率に影響を受ける可能性といった、新たに見出された知見と共に論文発表することができた(Toyoda Y. et al., PLoS One, 2016.)。また、劣性表現型に対応するABCC11 Arg180(538G>A)変異体が生体内においても成熟した糖タンパク質として安定的に存在できないという、in vivo試験や臨床検体解析の結果として得られた知見を論文発表した(Toyoda Y. et al., Int. J. Mol. Sci., 2017.)。これらの成果はABCC11を中心とするヒト体臭・腋臭症研究のさらなる発展に貢献する重要な知見であると考えられる。また、生活習慣病のひとつとして脂肪肝に着目し、脂肪肝モデルマウスを作出することに成功した。関連する研究成果を取りまとめた原著論文を投稿する準備を進めており、平成29年度も優先的に継続することで、できる限り早い段階でのアクセプトを目指すことを計画している。
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