研究課題/領域番号 |
15H05612
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研究機関 | 国立研究開発法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
佐藤 豊 国立研究開発法人農業生物資源研究所, ゲノムリソースユニット, 主任研究員 (90510694)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イネ / 栄養代謝 / マイクロアレイ / 突然変異体 |
研究実績の概要 |
圃場環境下で栽培したイネの生育過程においてどのような体内生理の変化が起きているか明らかにするために、複数の条件下でイネを栽培し比較することが必要であると考えられる。そのため、沖積土と火山灰由来の洪積土の2種類の水田、さらに窒素の施肥量を3段階に調整した水田に、日本晴、コシヒカリ、タカナリを栽培し、経時的な生育調査および収量調査を行った。また、同時にトランスクリプトーム解析に供する葉をサンプリングした。 2014, 2015年に沖積土と洪積土で栽培したイネのサンプルを用いてマイクロアレイ解析を行った。窒素とリンの栄養状態をモニタリングするために選抜した指標遺伝子の発現を連続的にプロファイリングした結果、窒素とリンの栄養状態は連動して変化しており、さらに生育調査のデータと照らし合わせたところ、その変動と分げつ数制御との関連性が示唆された。また。洪積土で栽培したイネで見られた生育初期のリン欠乏反応が沖積土では見られないこと、一方で2種類の水田において窒素指標遺伝子の発現変動パターンは基本的に同じであることが分かった。2015年に窒素の施肥量を変えた水田で栽培した日本晴を用いたトランスクリプトーム解析からも、栄養状態の変化と分げつ数制御との関連性が示された。コシヒカリ、タカナリにおいて窒素およびリンの指標遺伝子の発現を解析した結果、タカナリの窒素指標遺伝子の変化が日本晴やコシヒカリと異なることが明らかになった。 栄養状態の変化が起きる時期に表現形が現れ、さらに栄養欠乏に対して感受性を示す2つの突然変異体とカサラスとのF2分離集団を用いて遺伝解析を行い、それぞれ原因遺伝子が座上する領域を絞り込んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験室レベルの研究と異なり、圃場レベルの研究では様々な環境要因の影響を受けることから安定した結果を得るのは容易ではない。しかし、これまで蓄積した圃場におけるイネの十分な遺伝子発現情報に加えて、使用している水田の土壌分析結果なども考慮して試験設計を行っていることから、本研究で得られたデータは圃場におけるイネの体内生理の変化を明らかにする上で非常に有用なものであると考えられる。また、窒素の施肥量を3段階に調整した水田においては、想定していたよりイネの生育調査で見られる差が少なかったが、日本晴のトランスクリプトーム解析ではその差を精度よく捉えることができており、遺伝子発現による体内生理モニタリングの有用性を示すことができたと考えている。 日本晴のゲノム配列を基に作成されたマイクロアレイをコシヒカリやタカナリなど他の品種に適応し比較することが可能かどうか疑問もあったが、比較ゲノムハイブリダイゼーション (CGH) アレイ解析を行い、その結果をもとに指標遺伝子を絞ることで、それらの品種間でも発現プロファイルを比較できることが明らかになった。それによって、品種間の違いが検出できたことから、今後の研究の方向性を広げることができた。 突然変異体の原因遺伝子のマップベースクローニングについては、カサラスと交配したF2後代を使うことで様々な表現形が分離し、目的の形質の識別が難しいところもあったが、ゲノム上の候補領域を絞り込むことができた。 以上のことから、これまでの進捗状況としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
再現性を見るためにこれまでと同様の試験区の圃場にイネを栽培し、経時的な生育調査およびサンプリングを実施する。当初の計画ではトランスクリプトーム解析に加えてメタボローム解析も行い、代謝物の変動もモニタリングすることでイネの生育について分子レベルでの理解を深めることを検討していたが、今年度実施したGC-MS解析では十分な解像度の結果を得ることができなかった。そのため、今後はメタボローム解析を実施せず、変動の幅が大きく感度も高いと考えられるトランスクリプトーム解析に絞って、体内生理の変化をモニタリングすることを考えている。ただ、圃場の試験においては再現性を見ることが重要性である一方で、同じ栽培条件でトランスクリプトーム解析だけを実施しても明らかになることに限界がある。そこで、染色体断片置換系統群などの遺伝学的材料を利用することで、指標遺伝子の発現プロファイルから明らかになった品種間差異に着目した解析を進めることを計画している。それによって、体内生理の変化とその変化が形態的に及ぼす影響、または逆に形態的差異が体内生理に及ぼす影響について遺伝学的に解析ができればと考えている。また、栄養状態の変化と分げつ数制御の関係性について理解を深めるために、葉と分げつ芽のトランスクリプトームの比較解析を実施する。突然変異体の原因遺伝子の単離については、候補領域を絞り込んだがその領域に座上する遺伝子数が依然多い。そのため、次世代シークエンス解析により原因遺伝子の特定を試みる予定である。
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