研究課題/領域番号 |
15H05616
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小西 美稲子 東京大学, 生物生産工学研究センター, 特任助教 (20642341)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物栄養 / 硝酸シグナル応答 |
研究実績の概要 |
NLP6のアミノ末端側546アミノ酸の領域(NLP6N)は核移行能力を持たないが、核移行シグナル(NLS)を付加することで一部を核に局在させることができる。しかし、コントロールとして用いた核局在性LexA-NLSと異なり、NLP6N-NLSの一部は細胞質にも存在する。すなわちNLP6N-NLSは核外へ排出されていると考えられる。この系を用いて解析を行ったところ、NLP6の約180アミノ酸の領域が細胞質への局在を担っており、この中で約100アミノ酸が必要であるという可能性が示唆された。この100アミノ酸の領域は、硝酸処理によってリン酸化される主要なアミノ酸残基に近接していた。さらに、形質転換体を用いて解析を行ったところ、細胞質にのみ局在するNLP6N-GFPでは硝酸処理に応答したリン酸化が見られなかった一方で、核局在能力も持つNLP6N-NLS-GFPは硝酸処理によってリン酸化された。すなわち、NLP6のリン酸化は核で起こることが示された。以上から、硝酸シグナルによりNLP6が核でリン酸化されると、その近傍の領域に影響して細胞質への排出が抑制される、という作用機作が推測された。さらにNLPの作用機構を明らかにするために、Y2Hスクリーニングにより相互作用因子の探索を行った。相互作用因子候補として、NLP自身、遺伝子発現制御に関わる因子、タンパク質分解因子と核膜孔複合体構成因子などを得た。次に、NLP自身が硝酸イオン受容体である可能性を検討するために、大腸菌を用いてNLP6の組換タンパク質を作製し、平衡透析法により硝酸イオンとの結合を調べたが、結合は検出できなかった。そこで、出芽酵母を用いて組換NLP6を作製し、in vitroリン酸化反応を行ったが、硝酸イオン依存的なリン酸化は検出できなかった。したがって、NLP6が硝酸イオンに直接結合するという証拠は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NLPが直接硝酸イオンに結合するというデータは得られなかったが、NLPのドメイン解析により細胞内局在を決定している可能性がある領域を狭めることができた。またスクリーニングによりNLPと相互作用する因子の候補も得られたことから、NLPの作用機構の解明に向けて順調に進んでいる
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今後の研究の推進方策 |
NLP6の細胞質への局在は、硝酸シグナルによってリン酸化される部位と近接した領域によって制御されている可能性が示唆された。今後はまずNLP6-NLSの細胞質局在が核外への積極的な排出であることを確認する。さらにこれを担う領域に狭めて、必要十分な最短の配列を同定する。この核外輸送配列と相互作用する因子を同定することで、NLPの細胞内局在制御の分子機構を明らかにすることを目指す。一方でNLP6断片に核移行シグナルを付加することにより強制的に核に局在させた場合においても、硝酸イオン非存在下では転写活性化能は完全に抑制されていたことから、核局在以外にもNLPの活性を制御する機構が存在することが示唆された。この点に関しては、シロイヌナズナNLP8について興味深い報告がなされた。NLP8はNLP6/NLP7と同じくアミノ末端側のドメインが硝酸応答性を示すが、このタンパク質の細胞内局在は硝酸イオンの有無によって変化せず常に核に局在するというものである。すなわち、硝酸イオン非存在時に、核に局在するNLP8の機能を抑制する機構があることが示唆された。本研究におけるNLP6の解析結果と合わせると、NLPの活性調節機構は少なくとも2つ以上存在し、NLP6/NLP7については二つ(以上)のメカニズムによって厳密に制御されていると考えられた。これらの活性調節機構を明らかにするために、同定した相互作用因子候補の解析を進める。まず、同定されたNLPの相互作用因子候補との植物細胞内での相互作用を確認する。相互作用が確認できた因子については、硝酸応答性遺伝子発現への影響や、NLPの修飾やタンパク質量への影響を解析する。
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