研究課題
バイオフィルムは微生物が固体表面に形成するフィルム状の集合体であり、その内部の菌は抗菌剤や免疫系・貪食細胞系の働きに高度の耐性を示す。そのため、バイオフィルムに関連する感染症は慢性化・難治化の一途をたどることが多く、現代社会において、バイオフィルム感染症の的確な予防法・治療法の開発が重要な課題となっている。本研究では、バイオフィルム感染症の主要な起炎菌である黄色ブドウ球菌のバイオフィルムマトリクスに見出した細胞質分子シャペロンやRNAの性状・機能・動態を把握し、バイオフィルム形成の分子機構を明らかにすることで、バイオフィルム感染症に対する予防法・治療法の糸口をつかむことを目指す。平成29年度は、47種類の黄色ブドウ球菌臨床分離株のバイオフィルム形成における様々なバイオフィルムマトリクス成分の役割を検証し、広範な株において細胞外DNAが最も普遍的かつ重要な役割を果たすことを明らかにし、Scientific Reportsに報告した。また、特に高いバイオフィルム形成能を有し、かつ性状の異なるバイオフィルムを形成する2種類のMRSA臨床分離株の全ゲノム情報と細胞外DNAの情報を取得するために、高純度なDNA試料の調製と遺伝子情報解析システムの整備を行った。次に、細胞外RNAがバイオフィルム内部へ取り込まれる機構を明らかにするために、細胞外多糖などの生体高分子とRNAの直接的な相互作用を表面プラズモン共鳴法などを用いて解析した。さらに、分子シャペロンDnaKとモデルペプチド/タンパク質を用いた分子間相互作用解析システムを構築した。
2: おおむね順調に進展している
バイオフィルムは、菌体とそれを包み込むマトリクス(バイオフィルムマトリクス)により構成される。バイオフィルムマトリクスの成分としては、細胞外多糖、タンパク質、細胞外DNAが知られており、生育環境や遺伝的背景の違いによって組成が異なる。バイオフィルムマトリクスの組成は、バイオフィルムの性質(強固さや量)に深く関係しており、その全容の解明は、個々の菌株のバイオフィルムの性状や形成メカニズムの解明において極めて重要である。29年度の研究成果により、細胞外DNAが最も広範な臨床分離株のバイオフィルムの形成とその構造の維持に重要な役割を果たすことを明らかにした。また、細胞外多糖などの生体高分子がバイオフィルムへのRNAの取り込みとRNAの安定化に重要であることを見出した。さらに、遺伝子情報解析システムの整備や分子間相互作用解析技術(表面プラズモン共鳴装置/ペプチドアレイなどの)の基盤構築が完了しており、概ね順調に進展していると考える。
最終年度の30年度は、①バイオフィルム形成株の全ゲノム配列および菌体外DNAの全塩基配列の決定、②様々な細菌における細胞外RNAの重要性の解析、および③分子シャペロンや細胞外核酸を標的としたバイオフィルム阻害法の開発について、研究計画どおりに進める。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 8 ページ: 2254
10.1038/s41598-018-20485-z.
Frontier in Microbiology
巻: 9 ページ: 182
10.1038/s41522-017-0026-1.
NPJ Biofilms and Microbiomes
巻: 3 ページ: 18
http://www.jikei.ac.jp/academic/course/11_saikin.html