研究実績の概要 |
全身獲得抵抗性(SAR)はサリチル酸(SA)により誘導される植物の免疫応答であり、広範な作物品種とその病害に対して、SARを誘導する薬剤「抵抗性誘導剤」の利用拡大が望まれている。本研究では、植物が普遍に備えていると考えられるSAR誘導機構を標的として新規抵抗性誘導剤の開発を目指し、SAがその受容体であるNPRタンパク質を選択的に制御するために必要な構造基盤を解明するため、NPRタンパク質の結晶化とX線結晶構造解析を引き続き実施した。 本年度は、SA受容体のNPR1, NPR3, NPR4のタンパク質凝集性を改善するためのシステイン残基の変異導入に加えて、結晶化促進のための融合タグを多様なリンカー配列を介して融合させたNPRタンパク質を調製し、NPRタンパク質の性状を改善した。これら融合タンパク質を用いた結晶化とX線結晶構造解析を行い、NPR4についてX線回折データを収集した。 NPRタンパク質とSAシグナル伝達経路の下流の転写因子との相互作用をin vitroで解析し、NPRタンパク質との相互作用に関わる転写因子の保存領域を推定した。また、植物細胞内でSA依存的に酸化を受けるNPR1の複数のシステイン残基を標的とし、酸化型変異体を調製して転写因子との相互作用解析を行い、特定のシステイン残基の酸化型変異が転写因子との相互作用に影響することが示された。一方、転写因子の標的DNAへの結合はNPR1に影響されないことから、SAシグナル伝達の転写調節はNPR1-転写因子間の相互作用様式の変化により制御される機構が考えられる。
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