研究課題
食物は栄養・味覚・生体調節の3つの機能を併せ持つ。しかし、これまで各因子は独立に研究されてきた。このため、これらを統合しなければ分からない課題、例えば栄養状態や体調の変化により味の感じ方が変わる原因は未だに不明である。本研究では最新の神経科学的手法により食欲中枢の神経活動を制御し、いわば人工的に満腹・空腹状態を再現することで味の感度・閾値や食の嗜好性が変化するかどうかを検証する。また、そのような変化を引き起こすメカニズムの解明を目指す。栄養因子・エネルギー状態の変化は末梢の臓器や様々な神経の様々な応答を誘導する。本研究は、これら末梢の臓器による副次的な影響を排除し、脳内における味・栄養情報の統合・評価機構を解明するはじめての取組みであり、食品科学分野に新たな学問領域を拡げるものといえる。本年度は、DREADD法という最新の神経科学的手法を用い、マウス脳視床下部に存在する摂食亢進神経を人工的に活性化し、空腹状態を再現できるかどうかを検証した。その結果、摂食亢進神経を人工的に活性化すると、マウスは絶食後に再給餌した場合と同様にエサを短時間に大量に摂取することを確認した。そこで、このマウスを用いて様々な味溶液に対する感受性の評価を行った。その結果、人工的に空腹状態を再現したマウスでは味に対する感受性が通常状態から変化すること見出した。また、この変化はマウスを実際に絶食させた場合にも観察された。このことから摂食中枢の神経の活動に応じて味覚感受性が調節されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
視床下部の食欲中枢神経を起点とした神経ネットワークを選択的に活性化することで、人工的に空腹状態を再現できることを確認した。このマウスを用いて味感受性の評価を行ったところ、マウスを絶食状態にした場合と同様に味に対する感受性が通常状態から変化すること見出した。このことから摂食中枢の神経の活動に応じて味覚感受性が調節されることが示唆された。
味覚感受性の制御を担う摂食中枢の神経が味情報を伝達する神経に及ぼす影響を明らかにするため、両者の位置関係を多重蛍光免疫組織染色にて詳細に解析する。また、視床下部の神経の投射先のどの神経が味や嗜好性の変化に影響を及ぼすかを探索する。
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http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2016/20160113-1.html