本研究は、樹冠の雨水再分配プロセスを「枝葉への雨水の付着と蒸発」「枝葉間での雨水移動」という物理現象の組み合わせとして捉え直し、実験・観測・演算を通して、樹木の濡れ乾き過程を物理的に再現することを目的とする。野外観測では、森林総合研究所苗畑におけるシラカンバにて樹木近傍微気象観測システムにより気象観測を行った。室内実験では、防災科学技術研究所の大型降雨施設に移植した樹高3~5mのスギ、ヒノキ、シラカンバ、ケヤキを各2本を用いて、人工降雨により林内雨・樹幹流の再現実験を行い、樹冠通過雨、雨滴、樹幹流を測定した。雨滴データを活用して林内雨の成分分離を実現し、降雨強度、樹種、葉の有無が樹冠の降雨再分配プロセスに与える影響を調べた。今後の3次元物理シミュレーションに向けて、レーザースキャナにより葉むしり前後の樹形3Dデータを取得した。葉のある樹木は、滴下成分が樹冠通過雨の主要成分であったが、枝のみの樹木は時間経過と共に滴下成分が減少し、直達・飛沫成分が主要成分となった。樹体の濡れの進行により、樹冠内の雨水分配プロセスが変動することがわかった。 林内雨生成の物理演算について、Yoann Weber博士学生(フランス・リモージュ大学)のコンピュータグラフィクス研究を通して、理論構築が進んだ。また、5月に開かれた国際ワークショップにおいてWilfried Konrad博士(テュービンゲン大学)と出会い、葉に対する水滴の付着と滴下の理論について議論を深め、理論構築が更に進んだ。 日本学術振興会外国人招へい研究者の制度(ID No.S16088)により、6月11日~7月10日にDelphis F. Levia博士(デラウェア大学教授)を招いて国際共同研究を展開した。
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