近年、電子顕微鏡やマイクロフォーカスX線CTなどの高分解能分析装置の発達により、ミクロレベルの木材組織構造を可視化することが可能となってきた。この技術を用いて、木材を乾燥させたときの水分移動を評価する研究が行われているが、ミクロレベルで水分分布を定量的に計測する技術は未だ確立しておらず、CT画像から得られる水分情報は限られている。そこで本研究は、CT画像と画像解析技術を組み合わせたX線CTイメージングを用いて、水分量を定量化して木材内部の水分分布を細胞レベルで計測する手法を開発し、木材を乾燥させたときに水分が細胞間をどのように移動するのか明らかにすることを目的とする。 昨年度までに、スギの小片を乾燥させながら高分解能のマイクロフォーカスX線CT装置を用いてCT画像の撮影を行ってきた。本年度は得られたCT画像を解析し、木材の空隙に存在する水分(自由水と呼ぶ)は内部に気泡の含まれた毛細管中の水分として存在し、液体の状態で細胞間を移行することを観察した。これは、毛細管中の水分の両端におけるメニスカスの蒸気圧差によって自由水の移動が起こるという従来の説が正しいことを示している。 一方で、CT画像の色の濃淡と密度との関係を示す検量線の作成に失敗したため、木材の細胞壁に含まれる水分(結合水と呼ぶ)を定量化することができず、結合水の移動については検討できなかった。 当初予定していなかった成果として、木材の細胞壁の密度に関する新たな知見が得られた。一般に木材の年輪として色が濃く見える部分(晩材と呼ぶ)と淡く見える部分(早材と呼ぶ)の細胞は形状が異なるものの細胞壁自体の密度は同じであるとこれまで考えられてきた。これに対して、今回CT画像を詳細に解析した結果、細胞壁の密度は晩材よりも早材の方が高いことが確認された。この知見は、木材の組織や樹木の生長に関する研究に影響を与えるものと思われる。
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