研究課題/領域番号 |
15H05629
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤田 雅紀 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (30505251)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 海洋天然物 / メタゲノム / 海洋細菌 / 生合成 |
研究実績の概要 |
シデロフォア 該当年度において、日本各地で採集し抗腫瘍物質等を含有することが知られている海綿動物3種および刺胞動物3種について、それぞれ各4 Gbpの配列データを取得した。この課程において、多様な組織性情の海洋底生生物組織から、NGS解析可能な高品質共生微生物メタゲノムDNAを取得する汎用的手法を確立した。また、得られた配列データに対してアセンブル・マッピング・アノテーション・ビニング等の解析を行い、それぞれについて複数のシデロフォア生合成遺伝子クラスターを見出した。また、同時に生理活性物質の生合成遺伝子情報や生産微生物情報についても取得している。
赤潮殺藻物質 広島湾由来のAlteromonas属殺藻細菌から赤潮原因藻類の一つであるラフィド藻に対する殺藻活性物質として2-aminophenoxazine-3-oneおよび新規類縁化合物3種を見出した。2-aminophenoxazine-3-oneはこれまでにも放線菌や陸上植物から抗菌物質や他種植物に対するアレロパシー物質として報告があったが、赤潮藻類に対する毒性の報告は始めてである。また、その殺藻活性はIC50値が0.29 microg/mLであった。また、Alteromonas属殺藻細菌2株のゲノムDNA配列解析を行い、これまでにゲノム解析されたAlteromonas属細菌には存在しなかった多くの二次代謝産物製合成遺伝子を見出し、殺藻活性との関連が示唆された。
クオラムセンシング物質 未知クオラムセンシング様活性物質の効率的な作成法を確立し、NMRスペクトルを測定可能な量を確保した。また、各種スペクトル解析の結果から、当初予測していたインドール関連化合物ではあるが、大きく母核が改変されていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シデロフォア 研究対象である熊本県天草産のMycale属海綿動物およびEleutehrobia属刺胞動物の採集に成功した。これら野生生物の採集可否は、気候や海況また周辺環境の変化などに依存するため、その確保は研究を開始するに当たって大きな問題となる。本年度の採集活動においては、Mycale属海綿は十分量確保した。一方、Eleutherobia属刺胞動物においては、理由は不明であるが過去に採集された地点においても生物量の減少がみられ、必要最小限の採集にとどまったことから、来年度以降も採集を継続する予定である。その他、生理活性物質の存在から関心が持たれた複数種の採集にも成功し、それぞれメタゲノムDNAの調製と解析を行えた事からも、順調であると考えられる。
赤潮殺藻物質 年度内に活性物質の単離と構造決定を終了しており、当初の目的は十分に達成したと判断できる。また、見出した化合物は当初想定していたよりもシンプルな化合物であり、既に有機合成による大量調製法も確立した。今後の詳細な生物活性を検討するための材料も準備できており、また赤潮発生海域の研究者と協力して実環境における取得化合物の機能を解析する準備も進めている。
クオラムセンシング物質 最大の問題と考えられていた、構造解析に必要な量の確保であるが、年度内にその目処もつき、実際にNMRスペクトルを取得できたことから、当初の目的を達成できたと判断した。量的な問題はほぼ克服し、今後の生物活性を解析に必要な量も確保しており、順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
シデロフォア 昨年度は合計6種の海綿および刺胞動物等の海洋無脊椎動物から、総計30 Gbpのメタゲノム配列を取得した。また、それらのアセンブル・アノテーション・ビニング等の情報生物学的処理により、多くの未解析微生物からシデロフォア生合成に関与すると推測される遺伝子クラスターを見出した。今年度は、それら生合成遺伝子クラスターのクローニングと異種発現による利用シデロフォアの同定を行う。また、配列情報からシデロフォアレセプター遺伝子の抽出を行い、利用シデロフォアの推定を行う。
赤潮殺藻物質 昨年度はAlteromonas属細菌1株から赤潮原因藻類の一つであるラフィド藻に対する殺藻活性物質として2-aminophenoxazine-3-oneおよび新規類縁化合物3種を見出した。そこで本年度は他の赤潮藻類および大型藻類や魚類・甲殻類等の他の水生生物への影響を検討する。また、その生合成遺伝子の同定と、実環境中での物質検出を行い、実際に赤潮藻類の消長に関与しているかを検討する。
クオラムセンシング物質 昨年度はメタゲノム由来クオラムセンシング物質の高効率な調製法を確立し、また化合物の精製し実際に各種スペクトルデータを得た。その結果、関連が推測されていたインジゴとは大きく異なる構造が示唆された。本年度は最終的な構造の確定と、各種生物検定による本物質の機能解析、さらには実環境中で発現と、生物間相互作用にどの様に寄与しているのかの検討を行う。
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