研究課題
節足動物は病原体以外にも様々な微生物を体内に保有し、節足動物―病原体―共生微生物の3者間で複雑な共生関係を構築している。この関係理解には、「どのような種類の共生微生物」が「どのような機能を持つのか」を知ることが不可欠である。本研究では、病原体媒介節足動物の共生微生物のゲノム情報を体系的に整理し、節足動物と病原体の宿主寄生体関係に関わる共生微生物の探索を行う。昨年度に引き続き、国内および海外(ザンビア共和国、ミャンマー連邦共和国)で約3,000個体以上のマダニを採集し、マダニ乳剤と核酸(DNA・RNA)のライブラリを拡充した。また、蚊についてもミャンマーにおいて定期的にサンプリングできる体制を整え、約1200個体を採集し解析を実施した。これまでマダニから分離した共生菌(Rickettsia、Rhabdochlamydia等)については、MiSeqおよびPacBio RS IIを用いてドラフトゲノム配列を決定した。さらに、難培養微生物(未分類のフレボウイルス、アルファプロテオバクテリア門の細菌等)に関しては、マダニから抽出したDNAおよびRNAのショットガン解析により、ドラフトゲノム情報を取得した。さらに、マダニから抽出した核酸材料をもとに、特定の共生ウイルス・細菌・寄生虫を標的としたPCR検査に加え、原核生物16SリボソーマルRNA遺伝子を標的としたアンプリコン解析を実施し微生物叢情報を取得した(約500個体)。アンプリコン解析の結果、多くのマダニがCoxiella類縁菌を持つことが明らかとなった。Multi-locus sequence typing(MLST)解析により、Coxiella様共生菌と宿主マダニが共進化関係にあることを明らかにした。また、フタトゲチマダニ実験室維持株(岡山株)のマルピーギ管から、Coxiella様共生菌を精製し、ドラフトゲノム配列を取得した。
2: おおむね順調に進展している
国内外でのマダニおよび蚊の採集が順調に進み、節足動物乳剤と核酸試料のライブラリを拡充できた。約500個体のマダニのアンプリコン解析から、マダニが持つ共生微生物叢の全体像が明らかとなり、節足動物―病原体―共生微生物の3者関係を解析する上で、解析対象とすべき微生物群の絞り込みに有用であった。分離された共生菌(Rickettsia、Rhabdochlamydia等)および難培養微生物(未分類のフレボウイルス、アルファプロテオバクテリア門の細菌等)のドラフトゲノム情報も順調に取得でき、研究全体の進捗状況は良好であると判断する。
【節足動物の野外収集】国内外においてマダニおよび蚊の野外収集を進める。海外のフィールドとして、これまで調査を実施してきたミャンマー連邦共和国およびザンビア共和国に加え、フィジー共和国、スーダン共和国を新たに調査予定地として加え、計画を進める。【微生物叢の解析】節足動物からゲノムDNAを抽出し、16SリボソーマルRNA遺伝子のV3-4領域をターゲットとしたPCRアンプリコンを得る。さらに、原生動物を対象とした18SリボソーマルRNA遺伝子のV4領域のアンプリコンも解析に供し、細菌叢および原虫叢を明らかにし、保有微生物種のデータベースを充実させる。【共生微生物の分離】共生微生物の分離を目的とし、これまで使用してきた節足動物細胞(C6/36、ISE6等)に加え、新たに複数の節足動物細胞を英国の共同研究先から入手する。また、日本の固有マダニ種から細胞株の樹立を継続して進める。【共生微生物のゲノム解析】これまでに分離した共生細菌について、ゲノムDNAを抽出してPacBio RS IIおよびMiSeqを用いてドラフトゲノム配列を得る。MiGAPによるゲノムアノテーションを行い、ゲノム情報をカーカイブ化する。【節足動物への共生微生物接種試験】実験室飼育のマダニおよび蚊に対し、マイクロインジェクションを用いて共生微生物の接種試験を行う。FISH(fluorescence in situ hybridization)法により、節足動物体内での微生物の局在を検討する。また、接種した共生微生物と病原体の動態を、リアルタイムPCRにより評価する。野外採集した節足動物個体の実験室維持株の樹立を継続して進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 6件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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