研究課題
節足動物は病原体以外にも様々な微生物を体内に保有し、節足動物―病原体―共生微生物の3者間で複雑な共生関係を構築している。節足動物が保有する共生微生物の構成を特定し、優占する共生微生物を中心にそれらのゲノム情報を体系的に整理することで、節足動物―病原体―共生微生物の共生関係維持機構の解明につながることが期待できる。今年度は、これまでの解析で国内マダニ種において優占細菌属として検出されたCoxiella属細菌、Rickettsia属細菌、Spiroplasma属細菌について系統解析を実施し、宿主マダニの系統関係との比較解析を実施した。その結果、Coxiella属細菌では宿主マダニの系統進化とおおむね一致する形で遺伝子型の分岐が見られ共生関係が安定的であることが示された。一方、Rickettsia属細菌およびSpiroplasma属細菌では、宿主マダニと遺伝子型の一致度合いが低く、マダニ種間で共生細菌が伝播・維持されていることが示唆された。このことを実験的に証明するために、シュルツェマダニから分離したSpiroplasma属細菌をフタトゲチマダニ実験室維持株に実験的に接種し、Spiroplasma属細菌がマダニ種間を超えて感染し、介卵および経発育期伝播することを確認した。現在、Spiroplasma属細菌の全ゲノム解析および遺伝子発現解析により共生維持に重要な遺伝子の絞り込みを行っている。また、他の共生細菌についてもゲノム解析を継続して進めており、新たにRickettsia asiaticaおよびRickettsia tamuraeについてドラフトゲノムを構築した。さらに、国内で採集された軟ダニ類(約150個体)を材料に16SリボソーマルRNA遺伝子のアンプリコン解析を実施し、Coxiella属、Francisella属、Rickettsia属を優占細菌種として特定した。
2: おおむね順調に進展している
Rickettsia属細菌を中心に共生細菌のゲノム解析が順調に進んだ。Spiroplasma属を用いたマダニへの実験感染試験に成功し、共生微生物のマダニ体内での動態解析に有用な実験系を確立できた。これまでに解析の中心となってきた硬ダニに加え、軟ダニの構成微生物叢を明らかにできた。硬ダニ-軟ダニ両者の共生細菌の比較解析結果から、節足動物の進化適応および病原体媒介に関わる共生微生物あるいはその遺伝子の解析に有用な基礎情報を得た。さらに、昨年度から計画に加えたMinIONを使用したドラフトゲノムの精度向上、真核生物を対象とした18SリボソーマルRNA遺伝子のアンプリコン解析、新たな節足動物細胞の導入・維持についても順調に整備を進めていることから、研究全体の進捗状況は良好であると判断する。
【共生微生物の分離試験】リバプール大学から入手した4株のマダニ細胞(BME/CTVM23、IRE/CTVM20、AAE2、DAE15)を用いて、共生微生物の分離を試みる。マダニ細胞種により増殖できる共生細菌が異なることが報告されており、これまでに分離されていない新たな細菌属およびウイルス群の分離が期待できる。また、チマダニ属の卵を用いたチマダニ属マダニの細胞株の樹立を継続して進める。【節足動物への共生微生物接種試験】実験室飼育のマダニおよび蚊に対し、マイクロインジェクションを用いて共生微生物の接種試験を行う。マダニに関しては、新たに野外採集個体(シュルツェマダニ、ヤマトマダニ、オオトゲチマダニ)を実験室維持株として樹立し、接種試験に用いる。共生微生物の体内局在および体内動態は、FISH(fluorescence in situ hybridization)法およびリアルタイムPCRにより評価する。【真核生物叢の解析】節足動物からゲノムDNAを抽出し、真核生物を対象とした18SリボソーマルRNA遺伝子のV4領域のアンプリコンも解析を実施する。マダニ由来18SリボソーマルRNA遺伝子の増幅を抑制するため、マダニ配列に特異的なペプチド核酸を設計し、ブロッキングPCRを実施する。PCR産物をMiSeqを用いて解読し、真核生物の組成を明らかにする。【共生微生物のゲノム解析と発現遺伝子解析】これまでにドラフトゲノムを決定した共生細菌(Coxiella属細菌、Rickettsia属細菌、Spiroplasma属細菌)について、感染細胞、感染節足動物個体からtotal RNAを抽出し発現遺伝子の解析を行う。病原体保有の有無を指標に、節足動物―病原体―共生微生物の共生関係維持に関与する微生物遺伝子の特定を行う。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 6件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 8件)
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