研究課題
近年、伴侶動物の慢性腎臓病(CKD)が急増している。腎臓の細胞が放出し、かつ尿中で検出できるバイオマーカーは、腎局所病変の存在ならびに腎病理型の非侵襲的予測に有用である。我々は、次世代バイオマーカーとしてマイクロRNA(miRNA)に着目し、尿中エクソソームに包含されるmiRNAを伴侶動物の“CKD診断バイオマーカー”に応用することを目的としている。本年度は下記の計画を実施した。計画①:北海道大学動物医療センターならびに協力民間動物病院からイヌとネコの尿サンプルを収集し、血中BUNおよびクレアチニン値のデータをもとに健常群と腎臓病群(各群n>23)に分けた。収集した尿からエクソソームを抽出し、RNAを精製後、各種解析に用いた。尿中エクソソームサンプルを用いて、エクソソームマーカー(CD9、Tsg101)をウエスタンブロッティング法で検出し、伴侶動物の尿にもエクソソームが存在することを確認した。上記4群(各群1プールサンプル)のRNAサンプルを用いて、次世代シークエンス解析を行った。さらに、得られた解析データならびに過去のイヌ・ネコの腎臓内miRNA発現データを基に尿中エクソソーム由来miRNA発現パラメーターを作出した。結果、イヌ・ネコ共に腎臓病群の尿中エクソソーム由来miR-486/let-7b比が健常群のそれよりも高い傾向にあった。イヌ・ネコにおいて、let-7bの腎臓内発現量が高く、let-7bは尿中エクソソーム由来miRNAの発現補正に有用であると考えられた。腎臓内におけるmiR-486の機能は未だ不明である。計画②:並行して、次世代シークエンス解析によって選抜したバイオマーカーmiRNA候補が関与する病理イベントをモデル動物でも解析している。MRL/MpJやB6.MRLc1マウスをモデル動物として用いているが、本年度はコットンラットが尿細管間質病変を主体とするネコ様CKDを発症することを発見し、尿中エクソソーム由来miRNAと腎病理イベントの解析に有用なモデルになると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度はイヌおよびネコの尿からエクソソーム由来miRNAを精製し、次世代シークエンス解析を実施し、バイオマーカー候補の選定を行った。当初の計画通り進行しており、今後も選定作業をすすめていく。
以下の研究計画を遂行する。計画①:CKDのイヌ、ネコ、モデル動物の尿・腎臓中の候補miRNA発現動態と腎病理の相関を解明する。健常群とCKD群の尿由来エクソソーム・腎臓内の候補miRNAをTaqMan PCR解析で定量・比較する。尿および腎臓内の候補miRNAの変動を各CKDステージで明らかにし、腎病理(病理組織スコア、病態関連分子のmRNA・蛋白発現量)・腎機能(血中BUN・Cr、尿蛋白値)との相関を解析する。in situ hybridization法とLaser Microdissection法で候補miRNAの腎臓内局所発現を明らかにする。以上より、選抜した候補miRNAが関与するCKDの病理イベントを決定し、バイオマーカーとしての特性・有用性を明らかにする。本解析にはパラフィン切片を利用でき、長期保存サンプルを導入して症例数を増やす。計画②:in vitro 培養系を用いて、バイオマーカーmiRNAが制御する細胞内イベントを同定する。動物で同定したmiRNA発現細胞と近縁の細胞株を用い、バイオマーカーmiRNAまたはそのsiRNAを細胞に導入する。導入後、形態変化を観察すると共に、網羅的mRNA発現解析で影響を受ける遺伝子群を同定し、miRNAの下流シグナルを解析していく。本解析により、バイオマーカーmiRNAの標的mRNAとその下流経路を同定し、臨床応用への基盤となるmiRNAのバイオインフォメーションを明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
Histochemistry and Cell Biology
巻: in press ページ: in press
10.1007/s00418-016-1438-3
Histology and Histopathology
巻: 31(2) ページ: 189-204
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http://www.vetmed.hokudai.ac.jp/organization/anat/
http://researchers.general.hokudai.ac.jp/profile/ja.wkc9JlsishXmgpuI4vfbHA==.html